先日、テレビで映画「ミッション・インポッシブル/ゴーストプロトコル(MI4)」の再放送を見た。改めてSF作家のITの想像力と造詣に驚いた。今回、MI4で使われたコンタクトレンズの顔認識技術をヒントに、XR (X-Reality:リアリティ技術の総称)について考えてみたい。
XRは今後も期待値が高い
XRにはいくつかの種類がある。「仮想現実(VR)」は、現実空間とは別の新たな仮想空間上で展開する技術で、医療シミュレーション、娯楽等で幅広く実用化されている。「拡張/複合現実(AR/MR)」は、現実空間を透過して仮想空間を重ねることで、現実空間をキャンバスに見立てて、属性情報や仮想物を書き加えて新たな価値を生み出す技術だ。
XRのユーザーインターフェイス(UI)に着目すると、Microsoft社のHoloLens の紹介サイトでは、HoloLensを着用した数人がAR/MRの3Dモデルを共有し、その場で修正して議論する動画が公開されている。AR/MRヘッドセットの出荷台数は2021年には2017年比で6倍(約6,000万台)との予測もあり、今後もしばらく盛況が続きそうな勢いだ。
XRの潜在ニーズや発展性から、市場の期待値が高いのは必然だが、開発メーカーは、「直感的に適用しやすい」ユースケースに合わせて技術を適用するスタンスを取っている。これらの技術動向は、ビジネスシーンを大きく変える力を持ち、決して他人事ではない状況だ。
「スマートコンタクトレンズ」の開発が進行中
XRを人間の眼に見せるUIはどの方向に進むのか。HoloLensなど「ゴーグル/スマートグラス」は技術面で盛況だが、“見た目がちょっと”という難題がある。ウェアラブル端末が一般に浸透するかは「街中をファッショナブルに、自然に歩けるか」も重要なポイントだが、最近では米Intel社が“普通のメガネと変わらない”ことを目指したスマートグラス「Vaunt」の開発中止を発表するなど、苦戦しているようだ。
では更なる小型化として、冒頭の映画MI4のコンタクトレンズはどうか。実は「スマートコンタクトレンズ(以下スマコ)」として、既にGoogle社、サムスン社、ソニー社から、コンタクトレンズに各種センサーやカメラを搭載するなど特許出願済みだ。国内でもユニバーサルビュー社が現在モック開発中、2020年までに製造工程を完成予定と公表しており、そう遠い未来ではない。眼球を傷つけない安全性の壁、さらには質量とも十分な通信技術も必要なため、一般商用化には茨の道と思われるが、今後に期待したいところだ。
スマコはコミュニケーションを変える
スマコがXRを完全網羅し、利用者も増えれば、街中でのコミュニケーションが大きく変わりそうだ。眼球がそのまま端末画面になり、現実空間と仮想空間が広がる。音声はスマコの通信デバイスと骨伝導等で処理され音声データで耳に届く。カメラとモニタは眼球にあり、処理は全部クラウドにある完全「カメラレス」「モニタレス」な状態になる。ネット空間と現実空間の距離が一気に縮まる。ビジネスの場では、テレビ会議などの大掛かりな設備なしに、何千㎞離れた相手を今のLINEのように仮想空間上に呼び出し、すぐ隣にいる感覚で会話できる。瞬時にインスタントなコミュニティに参加できることになる。人間同士が集まり、会話する機会を根本から変えることになる。人間の表情まで瞬時にVRするといった感情面に踏み込んだらどうなるのか。働き方一つとっても大きな転機になりそうだ。
機微な個人情報のチャネルにもなる
一方、スマコを通じた「双方向」の通信が現実になる点は無視できない。双方向通信は非常に革新的だが、ある意味怖い発想だ。なぜなら技術的には、眼球をチャネルとして人間の個々の視点、体温、脈拍など「生の」情報を吸い上げて、クラウドのような「中央」に蓄積できるからだ。こうなるとスマコにとどまらず、眼球にXR技術を埋め込む「インプラント」の導入も想像できる。高精度な人間の感情、行動特性、生理的反応がデータ化され、分析可能になる。もしこれが現実になれば、この膨大な”個人情報”をどう扱うか、議論が白熱しそうだが、政策・産業分野などマクロな視点で、利用価値が高いデータを収集し、適切に利用することができれば、ストレスから解放された快適な社会へ導く第一歩につながるかもしれない。
SFのような世界は、本当に現実になりつつあるのだ。