めがねを使ってより長く走るために

花粉が大量に飛ぶ時期は、ジョギング時に普段は掛けないめがねを掛ける人も少なくないだろう。著者もその一人であり、どうせならと、センサー付きめがねを導入した。各種センサーを内蔵し、スマホアプリと連動して走るサポートをしてくれ、花粉をよける以外にも役立つ優れものである。将来性を感じるセンサー付きめがねだが、めがねによるトレーニング支援はもっと幅広い層をサポートできるのではないかと、ひとりのユーザとして感じている。

めがねによるトレーニング支援の今

高性能なセンサー付きめがねの代表例であるJINS MEME ESには、3点式眼電位センサー・加速度センサー・ジャイロセンサーの3つのセンサーが付いている。スマートフォンと連動するランニング用のアプリを立ち上げて走ると、ランナーの姿勢とカラダの中心からのブレを確認してくれる。有料のランニングデータ解析サービスに加え、フィットネスクラブでもJINS MEME ESを使ったサービスを提供し始めている

JINS MEME ESを掛けて走ると、姿勢がずれるとアプリが冷静な音声で指摘してくれる。そして、使ってみてわかったことだが、たまに健康志向に目覚めて走る程度の一般人は、姿勢がずれ始めるとずっとずれ続ける。おそらくヨレヨレになっているであろう様を、定量的・客観的なデータに基づき指摘され続ける。

より良いトレーニングに仕向けるためのモデルを作るには

いわゆるパーソナルトレーナーにあたるこうしたガジェットとアプリは、ユーザの状態や特性に合わせて、音声によるアドバイスをしてくれる。より適切なアドバイスをもらうためには、その人の置かれた状態を把握するためのモデルが重要になる。そのモデルを良いものにするためには、「個人にあったものをつくる」または「みんなでよいものをつくる」という方向性が考えられる。

前者の例として、めがねではなく「スポーツセンサー」や「アクティビティトラッカー」を用いたヘルスケアサービスだが、健康管理プラットフォームのFAIT(ソニーモバイルコミュニケーションズ)がある。FAITでは、事前に何種類かの試験をして個人の能力を把握し、ディープラーニングによる解析を行い、最適なトレーニングのアドバイスを行う。個人にあったモデルを改良し「あと一歩」を追い込むことができる。

後者の例は、データサイエンティスト向け共有サイトのComet.MLのように、モデルをみんなで改良していくような取組だろう。活動に関するデータは、サービスごとに囲い込まれている現状はあるものの、機械学習の解析データを共有して精度を高めることで、トレーニングの提案精度を高めることができる。

これで、確かにその人にあった良いアドバイスをもらえるようになるだろう。

「あと一歩」のために追い込むだけではなく、「あとで一歩」の発想も

モデルができて、良いアドバイスをもらえればそれは素晴らしい。 素晴らしいが、実際には良薬口に苦く、忠言は耳に逆らうものである。 そもそも、ただのガジェット好きが手を出す場合において、追い込みすぎることの逆効果を避けることも必要ではないか。

一個人の例で恐縮だが、JINS MEME ESも走り出しは姿勢をそれなりに褒められるものの、徐々に、意訳すると「ダメダメダメ、全然ダメ」と連呼されるようになり、これはなかなか辛いものがある。 欲しいのは、「ダメなやつだなぁ」と思っていても少し黙っているような、「しょうがないなぁ」と思っていてもちょっと気を紛らわすことを言ってくれるような寄り添い方なのである。 それであれば、その場で「あと一歩」出なくても、あとでまた使ってみようかなと、「あとで一歩」走るようになると思う。

例えば、将来、頭の中の言葉を読む機能がつき、目線を解析する「アイトラッキング」から得られる情報量が増え、つらさを把握された上でギリギリの「あと一歩」まで追い込まれる方向というよりは、「あとで一歩」の方向にも使えるようになるかに注目したい。