ママチャリだけじゃない電動アシスト自転車
電動アシスト自転車と聞くと、チャイルドシートが2つ付いたママチャリのイメージが強い。街中で見かけるのも、カタログや店頭で目に付くのもママチャリタイプが圧倒的に多い。一部メーカーはシティサイクル、クロスバイクモデルも販売しているようだが、滅多にお目にかかることはない。国内のレンタサイクルで一般的なモデルも電動アシストであるが、レンタサイクル自体がまだレアな存在である。
一方、海外ではElectric BicycleあるいはeBike(eバイク)として電動アシスト自転車は広く認知されており、人気が出てきている。特に欧州と米国が先導しており、大手メーカーは数年前から様々なジャンルのeバイクを販売している。最近では安価で後付け可能なキットなども販売され、DIY感覚で自転車のeバイク化を楽しんでいるようである。Kickstarterなどのクラウドファンディングでも盛んに新たなタイプのeバイクが商品開発されている。
米国においてはフィットネスやオフロード向けにeバイクが人気であり、fitbit、サイクルコンピュータ、モバイルナビゲーションとの連携も進み、コネクテッドな自転車になりつつある。今後はペダルやクランク、ホイールや、さらにライダーにもIoT機器を配置し、データロギングやパフォーマンスモニタリングが進むだろう。さらに、自転車自らが整備状況を監視し、自己診断・メンテナンスアラート機能などのスマート化も進むだろう。eバイクは次世代自転車のベースと考えてよい。
日本でeバイクが発展しない理由
一方、日本ではあまり自転車の電化は盛り上がっていない。日本では電動アシスト=ママチャリの認識が根強いが、eバイク先進国はどのようなことがきっかけで発展したのであろうか。
恐らく21世紀に入って環境対策、都市渋滞対策、ウェルネス志向が欧州を中心に広まったことで自転車が見直されたことと関係があるだろう。筆頭はデンマークのコペンハーゲンが挙げられる。世界一の自転車王国を自称するコペンハーゲンからeバイク外付けキットで有名なコペンハーゲンホイールが生まれたのは偶然ではない。イギリスではロンドンオリンピック開催に向けて、ロンドンの自転車政策を促進して多くの自転車向けインフラを整備したのは有名である。そしてヨーロッパには電車にそのまま自転車を乗せることができるサイクルトレインが各地にあり、通勤以外の自転車利用を促進している。自転車人口が増え、使用用途が多様化し、走行距離も増えるであろうことから、自転車の電動化が積極的に取り入れられたと考えられる。
一方、サイクルコンポーネントで世界トップのShimanoを擁する日本はなぜeバイクの普及が遅れているのであろうか。様々な要因が考えられるが、自転車に対するマインド、電動アシスト自転車の規制、道路・交通事情が影響しているのではないかと思っている。電動アシストは子供を乗せたママチャリ用であり、普通のチャリのパワー不足は立ち漕ぎでカバーするものだ、というマインドがまだ一般的だろう。
日本の電動アシスト自転車の規制はグローバル基準では特殊で、24km以上の速度ではモーターアシストは解除されないといけない。日本以外では一般的な25km上限の装置は違法となってしまうのである。24km上限の根拠は不明だが、外国製品の障壁となりeバイクのガラパゴス化を引き起こしているとの批判もある。
しかし、日本独自の規制を設けることは、国内の道路整備事情を考えれば必要なことである。事実上、自転車の歩道通行を容認している現状では、歩行者の安全を確保する意味で上限速度を抑え、アシスト量の細かなルールの設定も止むを得ないところである。歩道が未整備な道路は多く、狭く段差の多い歩道で暴走するeバイクは危険極まりない。実際、筆者は上り坂の歩道で後方から電動アシスト車に轢かれたことがある。ニューヨークでは、一部のeバイクに乗ったメッセンジャーがルールを無視した走行をし、交通安全を脅かしているとしてeバイクを全面禁止にした。
eバイクのすゝめ
ガラパゴス状態の日本のeバイク市場であるが、ドイツのボッシュが日本の規格に準拠したユニットの投入を発表し、もうじきそれを装備した完成車が登場するであろう。ShimanoのSTEPSも国内規制対応するようである。日本独自規格による障壁は克服されようとしている。
ようやくスタートラインに立った状況であるが、世界のeバイクはどんどん進化している。2014年にeバイクを合法化させたフィラデルフィアではeバイクの協会が設立され、展示会やイベントも開催されている。2年前にはすでに競技用自転車にモーターを隠して失格(機械的ドーピング?)になる選手も出ている。日本においても自転車のeバイク化に対応する必要がある。キャッチアップとともに、日本の技術力をフルに発揮して世界をリードしていくべきではないか。eバイクは日本が得意とする小型・軽量化、精密機械の分野である。
EVを推進する中国などでは電動車のパワーアップ、バッテリーの容量アップがトレンドであるが、日本は逆に攻めてはどうだろうか。自動車レースの分野で導入されているハイブリッドシステムでは充電池ではなくキャパシターと回生ブレーキを使って急加速、急減速をアシストしている。信号の多い日本の街中では、このシステムのほうが軽量化が図られエネルギー効率が良さそうである。
スマホを自転車に固定し、ナビや盗難ロックとして活用されているが、自転車の自動変速に使えないだろうか。自動車のエンジンと違い、自転車のエンジン(=人間)は非力なので変速のタイミングは自動化が難しい。個人差も含めると、ソフトウェアでの対応が必要であり、まさにAIが得意とする分野である。自転車のセンサーとスマホを接続し、スマホの傾き、加速度などの各種センサーを併用すればかなり高度な制御が可能となる。自動変速が有効に働くと、モーターによるアシスト量が少なくて済むメリットもある。
また、自転車にGoProを固定している場合は、自動車の運転アシストを応用したライドアシストなども考えられる。サイクルグラスにAR機能を組み込めば、危険探知など様々な応用が可能だろう。最近急増している自転車の交通事故対策に有効なのではないだろうか。システムに必要な電力はバッテリーや人力で賄えるので、小型・軽量化がポイントとなる。回生システムの効率が上がれば、スマホを充電するためにeバイクに乗る、なんてことになるかもしれない。フィットネスついでにスマホの充電ができたら素晴らしくないですか?
本文中のリンク・関連リンク:
- 自転車政策
- Bicycle Culture – The official web site of Denmark(デンマーク公式ホームページ)
- ロンドンと自転車政策(日本自動車教育振興財団 情報誌「Traffi-Cation」2015 春号)
- eバイク本体・コンポーネント
- ブリヂストンサイクル bikke ビッケ:日本の電動アシスト自転車のベース車
- コペンハーゲンホイール:後付け電動パーツのパイオニア
- ボッシュ製品情報:日本規格の電動アシスト製品群
- Shimano STEPS:Shimanoの日本規格品のベースシステム