2016年はチャットボット元年。2017年は、Amazon EchoやLINE Clovaなど、各社がスマートスピーカーを発売した。2018年は、会話するコンピュータが日常生活に受け入れられるかどうか、正念場の年になりそうだ。
数年先には、販売員や受付窓口など、対話業務の一部はAI化されている。対話型AIはどこまで広がるであろうか?人に残る職業と言われるカウンセラーにもAI化は近づいている。
メンタルヘルスは未だ潜在している
心の不調や病気は増える一方である。
日本の精神疾患の患者数は約400万人、15年前の約2倍に増えた。しかし、米国成人の5人に1人は何らかの精神疾患を抱えているという。日本では相談できずに、心の不調を抱えている人は多い。
産業カウンセラーへの相談件数は1万件を超え、最大の悩みは職場の問題とのこと。学校でも、カウンセラーを常勤にしたら、相談件数が倍増との報道もあった。
しかし、メンタルヘルスに抵抗や偏見があり、カウンセラーにかかりづらい状況は変わっていない。
世界ではAIカウンセラーが登場、でも日本は
世界では、AIカウンセラーが真剣に開発されている。例えば、米国の「Weobot」はテキストチャットを介したセラピーを提供する。 認知行動療法を使って、ユーザが悩みを打ち明け、自分を見つめ直し、解決策を探る手伝いをしてくれるチャットボットである。
X2AI社の「Tess」も心理療法を実装したチャットボットである。辛い経験をしたシリア難民に向け、精神的な助けを提供しようとしている。
インドの「ワイサ(wysa)」もチャットボットのセラピーアプリだ。AI化で失業の危機にさらされたIT技術者の相談に乗っている。
だが、日本にAIカウンセラーはまだ登場していない。
AIスピーカーはAIパートナー、そしてAIカウンセラーとなる
日本では、専門カウンセラーの敷居は高いけれど、悩みを打ち明ける話し相手であれば、AIの親和性は高い。鉄腕アトムやドラえもんに始まる、友達ロボットのアニメは、日本人の心に馴染んでいる。
このようなAIパートナーは、電子ゲームでは自然に登場している。恋愛シミュレーションの恋人役や、モンスターハンターのオトモ(相棒)がそれである。
ただし、一年通じて会話し続けるには、「女子高生りんな」のような雑談だけではダメ。すぐ飽きる。AIパートナーにも、日常生活での役割が必要である。ゲームキャラは役割があるから、会話が続き、親近感が湧いてくるのである。
現在、日常的な役割を持つ筆頭が、AIスピーカーである。いつもは召使や秘書として、自分の生活と仕事を学習し続ける。でも、ふとした時に話し相手になってくれる、AIスピーカーはそんな存在になる。そしてAIスピーカーに、悩みを漏らし、癒しを求める。
日本型AIカウンセラーは日常に寄り添う心の予防医療
AIスピーカーが話し相手になれば、AIカウンセラーを利用する人は大きく増える
今は心の不調が深刻になって始めてカウンセラーの扉を叩く。これからはちょっと心が弱ってきたらAIに話しかけ、聞いてもらうことができる。さらに進めば日常的なAIとの会話の中で、感情認識で本人も意識しない心の不調を捉える。AI側から本人の悩みを引き出すように語りかけるようになるだろう。
心の内を吐き出し、慰める友人や家族のいない人が増えている。日本型AIカウンセラーは、日常に寄り添うAIパートナーが担うのである。治療から予防に向かう、現代のビッグデータ医療の流れにも沿っている。
課題は、対話技術、スマートグラス、多様な心理療法
特定の質問応答や予約購買タスク、あるいは脈絡の無い雑談であれば、ある程度会話できるようになった。しかし、予想しづらい本人の悩みを聞き取り、理解するのは、技術的に難しい。当面はいかに「自然に分かった振り」ができるか、シナリオライターの腕次第である。
自ら動けないAIスピーカーでは、ユーザの日常に寄り添えない。心の悩みを理解する手がかりに乏しい、ということである。スマートグラスなら、常に本人と一緒である。一緒にいれば「昨日、上司に怒られたんでしたね。」と共感できる。しかし、スマートグラスの普及は数年後まで待たねばならない。
AIカウンセラーを実現するためには、AIに教える先生とビッグデータが必要である。しかし、心理学的療法には多様な手法がある。やっと国家資格「公認心理師」が始まったが、何十もの資格がある。数が多く、どの療法を基盤にすべきか決めづらい。また、カウンセリングはクライアントの秘密を守るため、データが乏しく、AIが学習できないのも問題である。
AIでカウンセリング需要は増え、カウンセラーは高度化
気軽なおしゃべり相手としての擬似AIカウンセラーなら、近い将来きっと登場する。だが、一般に普及し、日常レベルで活躍するには、まだ長い時間がかかるのである。AIが進展して、知識労働が次々AI化すると、心の不調はさらに増える。深刻になる前に、AIカウンセラーにかかり、心の健康度を診断して、セルフセラピーをサポートしてもらう時代が来る。
もっとも、すべてがAI化されると考えるのは間違いだ。AIでカウンセリングの間口が広がり、気軽に相談する機会が増えれば、むしろカウンセリング需要は増える。AIは潜在需要を掘り起こす役割を果たす。
ただし、マンツーマンの対面カウンセリングは、AIで対応できない相談に応える高いスキルが求められる。利用料も高額になる。多くのカウンセラーは、AIカウンセラーにサポートされるようになる。逆に、最新の相談事例を、AIカウンセラーに教える職業も登場するはずだ。 AI代替されにくいと言われる、カウンセリングにもAI化の波がくるのである。
あなたは悩みをAIに打ち明けられますか?
本文中のリンク・関連リンク:
- 精神疾患の増大
- 第1回これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会資料(厚生労働省)
- 2016年精神疾患のある米国の成人の年齢と性別による割合(統計サイトstatista)
- 2016年度の相談件数は、2年連続で1万件超えに!電話相談・対面相談ともに最大の悩みは「職場の問題」、電話相談では42.1%、対面相談では31.8%!(日本産業カウンセラー協会)
- 常勤カウンセラーへの相談件数1.7倍に 名古屋市(教育新聞)
- AIカウンセラーの萌芽
- チャットボットが「セラピスト」になる時代がやってくる「Woebot」(Wired)
- シリア難民にカウンセリングを提供するX2AI社(Newyorker)英語
- 空前のIT不況、インドの失業技術者を癒す「AIカウンセリング」(NewsPicks)
- Xiaoiceが中国人の話し相手になり心の疲れをいやしている(New York Times)英語