IT人材の新潮流、新たな体育会がIT人材輩出のカギとなるか!?

新たな体育会「eスポーツ部」の出現

大学の体育会といえば、ラグビーやアメフト、野球などをイメージするのではないだろうか。体育会に所属していた友人達は全国大会での活躍を目指し上下の規律も厳しい中でひたすら練習に打ち込んでいた。そして体育会で鍛えた精神力と体力で社会人としても営業や事業開拓などビジネスの最前線で活躍している。そのような体育会で新たな部が注目され始めている。「eスポーツ部」だ。eスポーツとは、複数のプレイヤーで対戦するコンピュータゲーム(ビデオゲーム)をスポーツ・競技として捉える際の名称であり、エレクトロニック・スポーツ(Electronic sports)の略。世界の競技人口は5,500万人以上とも言われている。

eスポーツの競技種類は対人ゲームが基本であり、FPS(ファーストパーソンシューティング)、格闘ゲーム、レーシングゲームなど10種類以上ある。2つのチームに分かれて戦い、どちらかのチームが敵を負かせば勝利となる。オフェンスとディフェンスのバランス、相手プレイヤーの情報を収集し、攻撃の特徴を把握した上でその対策を打つなど、実際のスポーツと同じように戦略や駆け引きが求められる。

アメリカで認知度UP

1980年代にファミリーコンピュータ(ファミコン)が登場して30年以上経つが、ゲームも進化し、スポーツとして認知されつつあるというから驚きだ。アメリカでは今年、全米110の大学が出場しeスポーツの大学ナンバー1決定戦が行われた。5人が1チームとなり、オンラインゲームでキャラクターが武器を使って攻撃や防御を繰り返す。eスポーツ部が体育会として認められているのだ。さらにアメリカではeスポーツ部に奨学金を出す大学が50を超えているという。カリフォルニア大学アーバイン校では、eスポーツ部に所属する全員に奨学金を給付し、奨学金を受け取る条件として筋トレを課しているということだ。

大学と企業の思いが合致、IT人材の新たな育成スタイル

何故そこまでして大学はeスポーツに注力するのだろうか。背景には2つの側面がある。1つはIT人材育成、もう1つは企業のビジネス戦略である。ゲームで勝つには、マウスやキーボードなどを巧みに操る集中力と相手の動きを的確に捉えてアクションを起こす瞬発力や反射神経が求められる。また、ゲーム時間が長くなると持久力・忍耐力や筋力(といっても指の力や腕力か?)も必要になる。そしてメンバが一致団結して勝利を目指すチームワーク。これらのスキルは総じてIT人材に求められるものであり、さらにゲームに強い人材はコンピュータサイエンスに関心が高い人が多い。大学としてはeスポーツ部の知名度を上げることで優秀な学生を多く集めることができる。

一方、企業としては機材や奨学金を提供し、将来自社で活躍できる優秀な学生を確保したり、企業宣伝の良い機会としてeスポーツを捉えている。IT関連企業だけでなく、ハードウェアメーカーやファーストフード店など、さまざまな企業が大会や選手のスポンサーになり、海外では賞金総額が1億円以上となる大規模な大会がいくつも存在している。2015年4月に設立された日本eスポーツ協会では、役員に国会議員や大学教授、賛助会員企業に大手広告代理店やSIerなどが名を連ねており、それぞれの思惑が透けて見える。

日本でeスポーツを流行らせるために乗り越えるべき壁

日本は欧米に比べ、明らかにeスポーツ後進国だ。その原因は、ファミコンなどのゲーム機が普及しており、オンラインゲームの利用者が増えなかった点と、ゲームに関する賞金に関する法律的な制約があることだ。風営法(風俗営業等の規則および業務の適正化等に関する法律)の観点から、大会がゲームセンターと同様の運営と見なされた場合は風営法の対象となり、ゲームの勝敗で賞品を提供すると法律に抵触してしまう。さらにゲームメーカー主催の大会で、ゲームソフトのおまけとして賞金が存在しているように見えると景表法(不当景品類および不当表示防止法)に引っ掛かる可能性もある。これらの制約をクリアしないと米国のような大規模な大会が開催できない。また、そもそもゲームなのにスポーツなの?と思う人も多く、世間の認知度も低い。それらの課題解決のキーとなるのがオリンピックだ。

オリンピックの正式種目になる日も近い

現在、日本ではeスポーツに関わる5団体が統合に向けた取り組みを開始している。JOCに加盟するための「国内にある唯一のスポーツ団体である」という規定を満たす業界統一の団体が設立されれば、2022年アジア競技大会への派遣が可能になる。また、その2年後の2024年にパリで開催予定のオリンピックでは、eスポーツの競技種目正式採用に向けた検討が進んでいるようだ。

eスポーツが日本のAI進展を加速させる

プロのゲーマがIT人材というわけではないが、ITに関心を持つ環境や機会が増えることがIT人材の裾野を広げるし、今後加速するであろうAIやIoTの進化に寄与する人材の層を厚くすることができる。

人材の層を厚くしてグローバルに通用する日本製FPSが登場してくるようになることは大きな課題である。そういう意味からもこれからのVR/AR時代に仮想世界で自由に高速に活動できる人材を確保することが、これからの企業の競争力強化には不可欠だ。米国で進んでいるゲームAIが、日本でも独自に進化して、それが日本の特長あるAIの開発につながって、ゲーム以外にも波及することを大いに期待したい。