働き方改革につながるAIの「働かせ方」

働き方改革の風潮とあいまって「AIによって業務を効率化し、生産性の向上につなげたい」という話を良く聞く。 本コラムでもAIが生産性向上につながることを折りに触れて紹介し、まずはスモールスタートで構わないので早急に着手することや、AIの見極め方等をお伝えしてきた(「AIは徹底した机上検討より素早い実地検証を」、「怪しいAIの見分け方」、「人工知能は早い者勝ち」)。

業務活用ならではの難しさ

スモールスタートで効果を実感し、それなりにAIの有用性が社内に認知されれば、次は本格導入である。 ところが、本格導入にはきわめて人間的なハードルがある。たとえば以下のような話だ。

AIを導入したいが、AIに任せてミスが起こったらどうするのか。
人手であれば「チェック漏れでした。プロセスを改善します。」と謝罪・改善すればよいが、「AIが間違えました」では納得してもらえない。
とはいえAIと人間がダブルチェックしていては(費用対効果があったとしても)インパクトが不十分で導入できない。

技術的に解決しようとすれば、大量の学習データを用意して最新の学習手法を使うということが考えられる。 しかし、現実的には大量のデータを用意できない、学習時間・コストが大きくなるということが一般的である。 また、仮に実現できたとしてもダブルチェックが不要になるほど精度が向上するとも限らない。

まずは業務の見直し

より確実な解決策は、業務の見直しを行うことだ。 AIを導入したい業務について、まずは業務フローを見える化し、業務をシンプルにする方法はないか検討する。 おそらく、

  • 外部からの伝票等のやりとりに手書きの帳票やFAX等を使っている
  • メールやオフィス文書として電子データはあるが、システムには情報が入っていない
  • 人手でシステムに入力するため、入力が徹底できない、ミスがある

等々が明らかになるはずだ。

これらの項目に対して、不要なタスクの廃止やシステム化の余地がないかを検討したい。 システム化であれば、冒頭に述べたようなAIによる「ミス」は発生しないからだ。

当然、外部との連携をシステム化しようとすれば相手先との調整が必要だが、働き方改革を追い風に共同でシステム化に取り組むこともしやすくなってきた。また、基幹システム等、システムの種類によってはシステム改修に多大な費用がかかることもあろう。その場合にはRPA (Robotic Process Automation)の活用も検討したい。メールでのやりとりについては、もしかするとチャットボットで代用できるかもしれない。

AIのタスクを絞り込む

これらを実施したうえで、なお判断・分類・予測等のタスクが残るのであればAIの出番となる。 タスクがシンプルであり、データもきれいになっているため、計算量の少ない古典的な手法を使っても精度の高いAIが実現できるであろう。 また、副次的な効果として、タスクの範囲が明確なため試導入による効果検証が行いやすい、手法が単純なためAIに対する納得感が得やすいという利点もある。 AIに何でも任せるのではなく、ピンポイントのタスクにきれいなデータを導入し、筋肉質のAIを作るのがポイントだ。

このようなプロセスを踏むと、AI自体の導入は多少遅くなるかもしれない。だが、システム化により生産性は向上し、AIの命ともいえるデータが整備される。広い意味でAI導入を進めている状態といえるだろう。

AIの研究者はなるべく複雑な事象での精度向上を目指しているが、ビジネス活用では他の手段と組み合わせて精度を上げられれば良い。 「AI活用」に囚われて生産性向上という本来の目的を忘れないようにしたい。