シェアリングビジネスによる働き方改革

シェアリング・エコノミーと呼ばれる程、何でもシェア(共有)するビジネスが大流行りだ。個人・法人が所有する遊休資産を貸し出すことで、稼働率を向上させて提供者側の収益を向上させるのと同時に、必要な時間のみを利用することで利用者の負担額を下げるという、Win-Winのビジネスモデルだ。こうしたシェアリングサービスを国内外で実際に使う機会があったので、その経験をもとに、提供側のビジネスに対する意識や今後の方向性を考えてみたい。

モノのシェアから発生するビジネス

シェアリングサービスとしては、週末しか稼動していない自動車の代わりに必要な時だけ使うカーシェアAnyca、さらに所有者が空き時間にドライバーをしてタクシー代わりになるUber、空いている部屋を観光客等に貸し出す民泊であるAirbnbなどが有名だ。個人が所有するモノを利用者とシェアすることで対価が得られる。これらのモノをシェアするサービスとしては、レンタカーやタクシー、ホテルなど従来型サービスがあり、事業者が持つモノを利用者間で時間的に共有して利用するという意味では同じである。ただし、いずれも規制する法令がある業界であり、事業者の登録や管理体制等の準拠が必要だ。誰でも、とりわけ個人が提供できるわけではない。そうした中で注目されているのは、ITを活用したC2C型の新しいビジネスモデルというだけではなく、従来サービスよりも使い勝手がよくやコスト的なメリットがあるためだろう。

従来型サービスでは、企業が所有するモノを時間単位で提供する仕組みを持っているのに対して、シェアリングでは提供者と利用者間のマッチング方式や相互評価、決済などの機能を提供するプラットフォームが存在する点が異なる。とりわけプラットフォームのビジネスモデルやアイデアばかりが注目されるが、プラットフォームを運用する事業者は、優良な提供者のみを増やし、利用者を呼び込むために紹介キャンペーンなど宣伝など地道な活動が重要である。さらには、共有されるモノについて清掃やメンテナンスを行う事業者、さらに、損失を補填するための保険など新たなビジネスが生まれることになる。エコシステムの維持にはそのような事業を担うパートナーが重要である。提供側の個人がその業務を担うことで収益を増やす方法もあるだろう。

スキルのシェアリング

C2C型ビジネスでシェアされるものは、個人が所有する有形のモノに限らない。個人が所有する時間やスキルも売り買いできる。

こうしたC2C型ビジネスの一形態として、コンピュータでは難しい単純作業を、居住地を問わずに一定の能力を有する個人にアウトソースするクラウドソーシングが存在する。これは、比較的単純で内容がはっきりしている作業であれば、低コストで一時的に必要な量の人を雇用できるというメリットがある。作業する人にとっても空き時間を活用できる、場所を問わずに働くことができるなどのメリットがある。

ただし、クラウドソーシングでは、一定の品質を維持することは課題になっている。大手のキュレーションサイトが閉鎖に追い込まれたのも、クラウドソーシングを活用し、コンテンツを低コストで大量生産したため、低品質なコンテンツが大量に発生したことに起因する。そのためアマゾンでは、Mechanical Turkサービスにおいて品質管理ツールを提供しており、品質の低い作業結果を拒否できるシステムとなっている。

その一方で、単純な労働力を利用できるサービスだけではなく、「みんなの得意を売り買い」というフレーズのココナラのように、特定のスキルを共有してもらうC2C型ビジネスも存在する。こうしたサービスで提供される人は専門的なスキルを持つ人材であり、低コストとは限らない。スキルや利用者からの評価結果、実績により希望する単価に反映される仕組みも導入されている。

市場評価から働き方改革へ

ところで、おっさんレンタルも話題だ。様々なスキルを持つ人材である「おっさん」を利用することができる。現状、1時間1000円の固定になっているため、話を聞く役割にとどまっており、専門的なスキルや評価等は対価に反映されていない。それでも、「おっさん」自身が市場で価値がある人材であることを認識できるサービスかもしれない。

このようにC2C型のシェアリングビジネスは、一般消費者が労働の対価として会社以外から収入を得られる方法の一つでもある。得られた収入は、個人が保有するスキル、労働時間、資産が市場で評価された結果に基づいて支払われた対価とも考えられる。実際に、サービスに登録して試してみれば、自分のスキルや経験などを反映した労働力が、どれぐらいの市場価値を持つのかを認識できる。昨今の働き方改革では、長時間労働削減や同一労働同一賃金などがテーマになっている。長時間労働を改善する方策の一つとして、社員の副業を認め、残業時間から削減した分や余った労働時間を使って自分の市場価値を認識してもらい、価値を高めるように働きかけるようにする方法はどうだろうか。