自由な航空情報共有に平等なプロセスを

2035年には世界の航空旅客数が約70億人に達すると予測されている。 空港や空の上は、2016年より2倍は混雑することになる計算だ。

「搭乗開始はいつだろう?

 乗ったは良いものの、なかなか出発しないな?

 滑走路前でも待たされるの?

 予定通りに到着するかな?

 天気が悪いけど遅れたりしないかな?

 遅れるとしたらどれぐらいなんだろう?」

20年後の70億人がこんなことを思いもしないような円滑な航空交通インフラが実現できるだろうか。

情報共有できれば、航空交通はもっとスムーズになる

急増する航空交通量を円滑にさばくには、情報共有の仕組みは欠かせない。欧米航空当局は、今「SWIM」という新たな仕組みを整備しつつある。

新たな情報共有の仕組みができると、航空会社は離着陸待ちの発生を予測して、遠回りでも燃費のよい経路を選べるようになる。 旅客は、自宅を出る前に、正確な搭乗時刻を知ることができ、搭乗口で長時間待たされなくなる。搭乗したのに、なかなか出発しないということも減るだろう。

滑走路や空域は、限られた世界の共有資源である。これまで航空当局の統制下にあった 「共有資源の分配が公平な市場原理の支配により行われる」ところにSWIMの特長がある。

しかし、公的な共有資源の分配を市場原理に任せることが、自由な市場環境に必ずしもつながらない。別の規制に姿を変えてしまうこともある。

情報共有の仕組みが選択の自由を無意識に奪うこともある

スタンフォード大学教授であるローレンス・レッシグは、 社会の規制のありかたには、

  • 1. 法律による規制
  • 2. 規範による規制
  • 3. 市場による規制
  • 4. 「アーキテクチャ」による規制
の4種類があると著書”CODE VERSION 2.0″(2007)の中で主張している。

最初の3つについては、

  • 1. 法律や契約に違反すれば制裁が、
  • 2. 規範(道徳や倫理観)に反すれば企業イメージが失墜するなどの制裁が、
  • 3. 金を払う価値のないものは市場から排除されてという制裁が
待っているから、意識的に人の行動を制約する規制として説明されている。

特徴的なのは、4つめの「アーキテクチャ」による規制だ。 法、規範、および市場による規制と異なり、無意識に人の行動を規定してしまう社会の仕組みとして説明されている。 例えば、飲食店が店内に硬い椅子を設置して回転率を上げるという例によって説明されることが多い。

内部的な処理が見えない情報システムは特に、無意識の社会の仕組み(「アーキテクチャ」)として人の自由な選択を制限する可能性を孕んでいる。

交通分野では、他の条件が同じなら、旅客の時間価値がより失われない方がよいとされている。 仮にA社の300人乗りの便とB社の100人乗りの便が、同じ時刻に離陸したいとしよう。 300人を2分遅らせるよりも100人を2分遅らせる方が、社会的損失が小さい。 SWIMが費用対効果を基準に意思決定する仕組みを持てば、B社は同時刻帯ではA社に先んじることができなくなってしまう。

航空当局による見えていた規制が、無意識の社会の仕組み(「アーキテクチャ」)により、見えない規制に落ち込んでしまっているのだ。 B社は、いつも無視意識にスムーズな航空交通流のためのコストを支払い続けることになってしまう。

これは、B社にとっては自由な競争環境とはいえない。見えない規制は、見えないからこそ、克服できなくなってしまう。

見えない規制を見える化する議論のプロセスが必要だ

B社の立場で考えると、このような不公平な社会の仕組みがあるかないかを把握したいと思うだろう。 そうすれば少なくとも「無意識」に不利益を被っているわけではなくなるからだ。そのためには、情報共有の内部的な処理も共有すべきだ。

当然これだけでは不十分で、この仕組みを変更したいとも思うだろう。 そうしなければ、結果的に「いつも」不利益を被ることになってしまうからだ。不公平性を議論して是正するプロセスやガバナンス体制も必要となる。

議論の結果を新たなビジネス・プロセスとしてSWIMに反映する仕組みも必要になる。 例えば、文書ではなく、機械可読式の法律や仕様書・設計書の論理的構造を記述することで、 運用中のSWIMに対する変更を可能とする仕組みもありえるのではないか。

見えない規制に落ち込んだ社会の仕組みを見える化するため、少なくとも議論のプロセスは確保されるべきだ。

結果が不平等でも平等な合意プロセスがないより公平だ

とはいえ、結果的にB社はいつもA社に滑走路を譲らなければいけないかもしれない。結果的にいつも不平等になってしまうこともある。

しかし、本来自由な競争とは、競争のプロセスを重視するものであって、結果が平等であることを求めてはいない。 見えない規制を見える化し、結果に至る道すじであるプロセスが平等なら、結果が不平等でも公平だ。

平等なプロセスが、本当の意味で、自由で公平な公的資源の分配をもたらす。