2020年、満開の桜をもっと楽しむ

東京はまさに桜前線が通過中。あらゆるメディアで桜の開花状況のニュースが提供され、SNSでは桜の写真にたくさんの「いいね」が集まっている。桜(ソメイヨシノ)は全個体がクローンであり、同一地域では一斉に開花し、約1週間で散ってしまう。開花宣言後2週間が勝負。3月後半にもなると飲み会の幹事たちはいったい何日に千鳥ヶ淵で花見を催せばよさそうか、アマチュアカメラマンたちはどの週末にどこへ行けば満開の桜を撮影できるのか、みんな一斉に調べて計画を立てたことだろう。 ところで、去年の紅葉シーズン前には、紅葉の予測精度が上がるとともに深刻な混雑が発生してしまうかもしれない、という内容のコラムを書かせていただいた。予測精度向上がもたらす負の側面をクローズアップしてしまったが、2020年ごろには人混みにうんざりせずにもっと快適にお花見を楽しめるようになっている可能性がある。

2017年4月1日、都内の枝垂桜
都内のシダレザクラ(2017年4月1日)

オリンピックに向けて発表される混雑予測、緩和ソリューション

2020年のオリンピックに向けて、国内大手企業がAIを使った混雑予測やIoTによる混雑緩和ソリューションを発表している。

例えば防犯カメラ映像の解析に強みをもつNECでは、防犯カメラが捕らえた群衆の動きをパターン化し混雑予測や異常検知を行うシステムを発表している。また、イベント会場に事前に設置したレーザー・レーダーでセンシングした人の流れを解析し、レイアウトや導線の最適化を提案するサービスを日立が開始している。そして、導線整理や混雑予測だけではなく、実際に混雑を緩和するために、参加者・来場者のスマートフォンへクーポンの配信や経路の提案を行うソリューションの実証実験を富士通が行っている。この実証では、事前に参加者・来場者の好みや行動特性を解析し、特性に合わせた行動を提案して誘導する。シンガポールで行われた実証実験では、実際に参加者の40%が行動提案を受けいれ、混雑緩和に繋がっている。

有名な桜スポットにセンサーを設置して事前に導線を整理し、桜の名所へ向かう道の監視カメラ映像からリアルタイムで混雑予測を行えば、ある程度混雑の緩和に繋がるだろう。また、家族連れには近くにあるレストランの情報を、宴会後のサラリーマンたちには二次会会場へ誘導するクーポンを配信し、花見客の移動を分散させることもできるだろう。

桜を楽しむ個人にとって便利なサービス

ここまで群集全体の幸福度を上げるソリューションをみてきたが、次に、個人にとってもっと桜を気軽に楽しめるサービスもご紹介したい。

まずは、ドコモが発表したAIタクシーである。モバイル空間統計を用いて人の流れを予測し、提携するタクシー会社に需給予測を提供する。タクシー乗り場に並んでいるけれど車が全然来ない・・そんな状況が減るかもしれない。また、自家用車で桜を見にいったときには駐車場の確保が課題だが、リアルタイムで空いている駐車スペースを確認できるサービス(例:エキスポシティの駐車場空車情報)も増加している。桜前線を追いかけて旅行する際は邪魔なスーツケースをどこかに預けたいが、旅行時にコインロッカーを探し回ってくたびれたことはないだろうか。そんなときのために、リアルタイムでコインロッカーの利用状況を確認できるサービスも始まっている(例:JR東日本が提供するアプリ)。

一方で、桜の名所で大勢の人たちと同じ感動を共有することも楽しいのだが、自分たちだけの満開の桜を楽しめるサービスもある。(貸切でお花見のできるレンタルスペース20選

多様なライフスタイルに合わせて桜を楽しむ

満開のソメイヨシノをもっとリラックスして楽しめる時代は直ぐそこまで来ている。ただし、ソメイヨシノ以外にも、日本には数百種類の桜がある。早咲きで有名な河津桜は2月中旬~3月上旬に見頃を迎え、シダレザクラはソメイヨシノより一足早く3月後半に満開になる。

3月末から5月上旬にかけてソメイヨシノの桜前線が列島を北上し、二週間ほど遅れて次は八重桜が咲き始める。ソメイヨシノに限らなければ、2月から5月まで四半期も桜を楽しむことができるのだ。4月に忙しい方には河津桜を、花粉症の方には八重桜をお勧めしたい。天気予報で開花状況がわからなくても、今はSNSやブログ等から色んな桜の情報を得られるようになっている。

近年ではInstagramやTwitterで広くシェアされ注目を集めた場所に観光客が殺到してしまうケースが目立っている。観光客の受け入れ態勢が取れていない(そもそも観光地でない)地域ではトラブルが発生してしまったり、訪れた人達にとっても満足度があまり高くないような不幸な状況がある。もっと個人の嗜好やライフスタイルに寄り添った楽しみ方が提案されるようになれば、このような状況は解消されるだろう。例えばFacebookから個人の嗜好や生活パターンをAIが分析し、ライフスタイルにあったサクラの品種や観光地、お勧めルートを提案する「お花見コンシェルジュ」の登場などが期待される。