コーヒーのテストマーケティングが深めるダークウェブ

『コーヒーの需要動向に関する基本調査』の結果を眺めると、日本でも家庭を中心にコーヒーを飲む量が増える傾向にあると改めてわかる。今後はITを使ったテストマーケティングの影響も出てくることが予想される。しかし、このテストマーケティングの影響は統計だけにとどまらない可能性を秘めている。

ITを駆使したコーヒーのテストマーケティングが活況

ITによりコーヒーの消費に影響しそうな例として以下が挙げられる。

  • My Starbucks baristaでは、人工知能&音声認識のAmazon Alexaにより注文できるようになる(いつものを飲みやすく)
  • Cafe X Multiroasterのようにネットで細やかな指定をしてからロボットが待ち受けるカフェで受け取れるようになる(こだわりを飲みやすく)
  • Stagg EKGのように、完ぺきなコーヒーになるように粉に合わせたお湯をアプリで制御できる電子ポットがKickstarterに出てくる(自分でいつものを飲みやすく)

これにとどまらず、大手から新興まで、一杯のためにITを駆使したさまざまな仕掛けを展開している。なかでも最近特に気になった仕掛けは、ロシアはモスクワのChernyi社の売り方だ。Chernyi社は、2種類のコーヒーをいわゆるダークウェブで売る試みを実施している。

ダークウェブは、匿名通信ネットワークである「Tor(The Onion Router)」内部に公開されたウェブサイトを指す。ダークウェブでは.onionという専用のドメインが使われる。Internet Explorer等の通常のウェブブラウザでは見えず、閲覧には専用のブラウザが必要だ。また、Google等の通常のウェブ検索エンジンに収集されない。さまざまな著作物で紹介されているような違法行為は論外だが、例えばFacebookに匿名性を重視するユーザのためのTor対応ページがあるように、必ずしも違法行為のためだけに使われているわけではない。そこに目を付けたマーケティングで、過去にも似たような試みはあったが、今回は反響が大きい。

ダークウェブの匿名性をめぐる技術開発

Chernyi社がダークウェブで売り出すコーヒーは、ビットコイン等仮想通貨(ロシアのQiwiでも購入可能)で購入するわけだが、ビットコインのすべての取引は通常のウェブ上に公開されているため、誰かが買っているという様子がなんとなくわかる。

匿名性を売りにするダークウェブとビットコインだが、匿名性が不十分という問題は従前より指摘されており、双方とも匿名性の強化のための研究がなされている。例えば、”Next Generation Bitcoin”や”Next Generation Tor”といったキーワードで検索すると数多くなされていることに気づく。ダークウェブの利用者が増えれば、一方ではスノーデン事件で暴露されたように匿名性を破るために研究機関にお金が流れ、もう一方では匿名性を高める新しい研究にお金が流れる。つまり匿名性の攻防に関する技術は確実に進歩する。

ダークなコーヒーによる教育効果

本稿を執筆するにあたり、ロシア語だけでなく英語のページまであったので、モスクワのChernyi社にビットコインを振り込もうとしたが、挽いてから海を越えるコーヒーを買うのは鮮度に難ありか、と取材のためとはいえ二の足を踏んでしまった。

国内でもコーヒー豆の『△△御用達自家焙煎ダークウェブ限定販売先着○○名様』という販売をしていたらどうだろうか。現実には国内の企業が実施できるかというとなかなか難しいだろう。ただ、ダークウェブ限定販売は、宣伝だけでなく、副作用として情報セキュリティ教育の効果もあると感じている。安全に買えるのか、他の人はどうしているのか、どういう仕組みなのか等を調査するだろう。これは、ダークな色のイメージに合うもの以外に応用が利かないため、コーヒーやチョコといったごく一部の製品でしか起こせない動きだ。

ダークウェブは危ないから近寄らない、それは正しい。ただ、ダークウェブが根絶されず、技術が進歩している以上、国内でも匿名性の攻防に関する技術はすそ野を広げて調査・研究すべきだろう。その必要性をこうしたテストマーケティングは改めて喚起したように思う。