外部環境の変化が起きるとよくやり玉にあがるのがシステム経費である。定常的に支払いを続けるシステム維持経費は、見直すことが難しく、硬直的なものになりやすい。この硬直性を打破するためにいろいろな取り組みが行われてきたが、現実は簡単ではない。
基本的なアプローチは、「1.経費構造の実態の把握」→「2.保守・運用水準の見直し(即効的な施策)」→「3.システム構造・組織構造の抜本的な見直し(中長期的な取組み)」となるが、今回はその各段階でポイントとなる事項、留意しておきたい事項をとり上げたい。
1.経費構造の実態の把握
システムそのもの、またそれを維持する組織体制のどこにどのような費用が発生しているのかを、きちんと把握することが第一歩となる。この部分から取り組みを行うことが、コスト適正化を進める際にシステムベンダにお願いベースで削減を行うのか、自社主導で適正化を進めるのかの分水嶺となる。
とくに、一括アウトソーシング契約が含まれている場合は、一括契約の領域がきちんと初期の目的にかなった状態で運営されているか、その効果を上げているのかを検討していく必要がある。
2.保守・運用水準を見直し(即効的な施策)
業務に合わせて設定された保守水準(常時駆けつけ、等)を見直すことで、一定の費用削減を獲得することができる。実際には、システム部門から業務部門への働きかけが必要になるため、保守水準を下げてもシステムそのものの運営に大きな影響を与えない、もしくは割り切れる範囲であることなどをきちんと押さえた上で、社内の意思を統一する必要がある。
運用水準の見直しはさらに難しい。ユーザ側に対して過剰となっているサービスを見直すことが基本となるものの、なかなか納得感が得られにくいのが実情である。そのため、運用部隊のチーム編成をより大くくりにして、できるだけ少ないリソースで多くのシステムを運用することが考えられる。ただし、対応する運用要員の業務知識の偏在などが阻害要因になりやすい。
自動化技術を効果的に使うことができれば、さらに効率的な運用体制を築くことができる。サーバ仮想化やクラウド(パブリック/プライベート)の活用は一般的になってきたが、個々のシステム環境の運用がまだ統一されておらず、多くの要員を割いている事例もある。仮想化に加えて、自動化のメリットを最大限享受するために、構成や運用の標準化を推し進めることも重要である。
上記のほか、固定費用契約の割合を削減するため、固定的な費用として支払うことになる契約を見直すことも有用である。そのためには、作業の繁閑を含めた実態の把握を進めることも必要になる。
3.システム構造・組織構造の抜本的な見直し(中長期的な取組み)
中長期的に大きな適正化を目指すには、システム構造と組織構造の見直しが必要になる。
データ連携技術が使いやすくなったこともあり、必要に応じて都度、選定・調達してきたシステムが乱立している状況にある企業も多い。現状を俯瞰して見ると、実は同じ基盤の上で作っておけば良かったものや、変更が多くパッケージ利用が適さなかったと思われる仕組みなどが見出されることがある。
企業におけるシステム構成は、業界標準的な一定の形に収斂してきているものの、自社の歴史を反映した古いシステムを残す判断をしていることも多い。また、外部サービスの取り込みのしやすさや、新たな仕組みの構築のしやすさなどは個々の企業の考えるシステムの形に依存する。そのため、システムアーキテクチャに関する検討の重要性が増している。
また、自社内製の部分とアウトソース部分の弁別など、システムアーキテクチャは自社のシステムに関する組織構造とも密接に関係する。自社のシステムに関する戦略をシステム技術だけでなく、ヒト(能力、要員数、教育)といった観点かも十分に検討することが求められている。
4. 短期的な成果を出しながら抜本的な取組みを動かし始める
柔軟な経費構造を持つ情報システムを目指すのに「銀の弾」は存在しない。
上記のように、地道に、「1.経費構造の実態の把握」→ 「2.保守・運用水準の見直し(即効的な施策)」→ 「3.システム構造・組織構造の抜本的な見直し(中長期的な取組み)」 といった手順で取り組むことが必要である。
特に、業務部門の情報システムへの関与を深める目的でシステムオーナー制がとられている場合、1. 及び2.の取り組みによって、全社的な状況を「見える」形にして、一緒に取り組むことが重要である。「3.システム構造・組織構造の抜本的な見直し」がゴールであるにしても、この検討を行うためには、全社的な協力態勢が必須である。
また、こういった活動を通じて、IT企画部門の機能が実態的に強化されることは、柔軟な経費構造を持つシステムを実現・維持するためにも重要であることを付け加えたい。