今こそ「運用の見える化」を

本稿では、「IT運用」に着目したい。筆者自身、ITの運用スタッフとしてのいくつかのシステム運用を経験し、また、新規システム開発プロジェクトやITコンサルティング業務においても複数のIT運用の現場にお邪魔してきた。そこで見たものは、IT運用は多くの課題を抱え、より「見えない」状態が進んでいる現場の実態である。

作業が増え、高度になるIT運用

筆者が経験したITの開発プロジェクトでは、「作る」設計への情熱は高いが、どうしても「使う」「管理する」設計が後回しになっていたことが多い。中には「運用でカバーする」という魔法の言葉で開発を先に進めてしまうプロジェクトもあった。後で運用側がカバーできず、深刻な事態を招くケースも少なくない。

ITを運用する側では、開発側から引き継がれた運用項目を、ルールに従い、監視ツールなどの使い方を覚えて黙々と管理する。反面、毎日の運用作業に追われて管理全体を見直すタイミングが見つからないまま、機能が追加され、運用の範囲が肥大化している。その結果、IT運用組織では、IT運用の全体像が「見えない」状態で、個別のシステムの「集合体」を一手に運用していることが多い。

一方で、経営陣からのコスト圧縮の要請は絶えない。ITコストの中でも、IT運用のコストは言うまでもなく経営へのインパクトが大きい。無駄なコストはもちろん削減すべきであるが、IT運用は自社のITを安心・安全に稼働させる大事な役割を担うため、コストバランスは慎重に見極める必要がある。(特に「とにかく下げよ」という場合が悩ましい。)コスト削減を言い渡された運用組織では、全体が見えないため、どう動くべきか戦略的な策が定まらないまま、手を付けやすい方法から選ぶことになる。

例えば、現在のスタッフ数を単純に削ることを選ぶとする。確かに人件費は削れるが、残されたスタッフ1人あたりの作業密度が濃くなる。別の例として、局所的に自動化ツールを導入することを選ぶとする。一見、処理そのものは正確になり、生産性が上がったように見える。ではその分、人が不要になるか、といえば現実的にはそうではなく、今までの手作業が機械に置き換わり、これまでの担当スタッフはその処理を見張る役目に代わる。

1人のスタッフの目線で言い換えれば、やることが増え、新しい方法を次々に覚えなければならない一方で、監視する内容が難しくなっていく。

IT運用のリスク

筆者も経験済みなのだが、こうしたことが積み重なると、運用スタッフの負荷が増大し、現場そのものが疲弊してくる。また、24時間稼働などの事業サービスの拡大や技術の進化、さらにはセキュリティ対策や行政指導などのITに対する外部からの要求の高まりが、IT運用の「見えない」方向性をさらに後押しし、一人ひとりの役割が曖昧になり、もっと疲弊する。最悪の場合、タスクに忙殺されて重大事象を見落とし、大きな障害を引き起こし会社の経営を揺るがしかねない事態を引き起こす。この結果、IT運用は「頑張っているが報われない」ことになる。これは何とかしなければならない。

型の定義(体系化)が第一歩

現場の疲弊は非常に大きなリスクである。今一度、運用全体を「見える化」し、それをベースに戦略的な施策を打つことが重要だ。元々定義しにくいIT運用を「見える化」するのは単純ではないが、初めの一歩として、IT運用の現状を棚卸することを提案したい。

ただし、棚卸といえども、闇雲に進めては情報の整理がつかない。

ITを運用管理する要素を効果的に棚卸するためには、自社のIT運用を体系化する(=型枠を作る)ことが必要だ。IT運用の管理要素を洗い出すためには、「サブシステム」「IT資産」「運用体制・スキル」「オペレーション」等々、自社の性格に合わせて枠を切り要素を挙げて、計測可能なKPIを設定することだ。型枠ができたら現状の実態をKPIベースで埋めていく(=型を作る)。ここまでできれば、現状は十分に見える化できるだろう。

IT運用を「見える化」して最適な施策を導く

未来に向けての改善施策は、KPIをベースに定義することが望ましい。例えば、”障害再発率”というKPIを設定するとしよう。何を対象にどの障害の再発をどう測るのかを定義する。その上で、定義済みの障害再発率を現在の値からどうすれば抑制できるのか、的確な施策を考えていく。この例ならば、実は「FAQの充実と社内周知」が一番の施策かもしれない。

そして今、次世代の運用管理ツール・技術の発展、DevOpsの浸透など、IT運用の考え方が大きく変わろうとしている。「運用の仮想化/クラウド化」や「自動デプロイの導入」なども重要な施策の柱になろう。しかし大切なことは、便利な技術を使い倒すためには、運用業務全体を自分で把握できる状態に「見える化」し、「何をしたいのか」を十分に検討してから、全体の効果を見極めて最適な施策を選ぶことである。

IT運用を「見える化」し、戦略的な施策を打つことで、一人でも多く、運用スタッフの疲弊感が取り除かれ、一社でも多く、IT運用が企業を支える重要な屋台骨であるという意識が高まることを願っている。