先日、ソフトバンクがIoT機器向け無線通信ネットワークであるLPWA(Low Power Wide Area)ネットワークの年内の提供開始を発表した。LPWAは、従来の無線通信ネットワークと比べて格段に低コストで、かつモジュールが10年以上乾電池のみで動くほどの低消費電力で動かすことができることが特徴であり、本格的なIoT時代をもたらす超実力派のネットワークの一つと目されている。
年間1ドルで10年使えるLPWA
図1 新しいIoT向け通信ネットワークの立ち位置
LPWAは、図1に示すように、「低消費電力」「長距離通信」というこれまでになかった領域の通信ネットワークであり、次世代のIoT向け通信ネットワークの一つである。モジュールや通信利用料も非常に安く、圧倒的な「低価格」も実現している。LPWAの一つで主に欧州で提供されているSigfoxは、1回線当たり年間1ドルで、50kmの伝送距離を実現しており、既に800万回線の契約があるという。ソフトバンクが提供を開始するLoRaWANも、モジュールは1個約500円と携帯向けの10分の1であり、電池で10年以上持つ省電力設計となっている。その代わり0.1kbpsから数十kbpsという超低速という制限はあるが、それでも利用シーンは格段に増えることは間違いない。
LPWAにもフランスの新興企業SigFoxが手掛けるSigFoxや、IBMやZTE、仏Orangeなどが中心のLoRa、従来の通信事業者がLTEの拡張版として推進するNB-IoTといった複数のアプローチがある。さらには新しいWi-Fi規格であるWi-Fi HaLowもまた同じ領域をターゲットとしているなど、まさにIoT向け通信ネットワークは百花繚乱となっている。
IoT向け通信ネットワークが切り開く新しい世界
これらの通信ネットワークにより、消費電力からくる耐用期間やコストが問題となっていた領域のIoTが一気に花開くであろう。社会インフラや災害の監視、農場の監視などは、まさに消費電力とコストが課題となっていた領域であり、現状のインフラ老朽化や農業のスマート化の流れとも相まって急速に普及が進む。費用対効果に加えて、電源の確保や配線の問題もあり、なかなか導入が進んでこなかった工場やビルなどの設備の管理・制御も同様だろう。人の動きを把握して価値を提供したいシーンでの利用拡大も想定される。高齢者・子どものみまもりに加えて、店舗・商業施設やオフィスでの利用、さらには低コストゆえに観光やイベント等での利用もあるだろう。
IoT向け通信ネットワークの本格普及に伴い、各領域で蓄積されるデータを活用したビジネスも本格化する。領域によってはそれらのデータの社会的な整備も必要だが、多くの領域ではLPWA等のIoT向けの新しいネットワークをいち早く展開し、ユーザとデータを集めることが重要となってくる。LPWAは、NB-IoTのような携帯電話事業者が既存の設備を活用して提供するものもあるが、LoRaWANのような免許不要帯を使い誰もが提供可能なものもある。今までの通信事業者だけが通信回線を提供するモデルが崩れ、異業種のプレーヤーや新興ベンチャーがルールを作り出していくような新しい秩序のIoT新市場が生まれる可能性もある。