紅葉やポケモンを求めて移動する人々

急に秋らしい気配となった。紅葉が楽しみになる季節である。既にもみじ狩り計画を立てた人がいることだろう。昔から、紅葉や桜を心待ちにする人は多い。とくに盛りを迎えた名所にはたくさんの人が集まる。

2014年の見頃を迎えた紅葉
見頃を迎えた紅葉(2014年)

今年の紅葉の見頃はいつか

昨年は、全国的に赤黒く色づきの悪い木が多かったことを覚えているだろうか。モミジ等の落葉広葉樹の紅葉するメカニズムには気温変化や日照量、降水量等の環境要因が影響する。昨年9月の予測では、よい色づきになるとされていたが、11月初めに急に暑さが戻った期間がある。それが影響してか、残念ながら色づきが大変悪くなってしまった。

今年こそは、と紅葉名所の情報をまとめたサイトを参考にしている方は多いだろう。ただし、葉が染まりはじめる前から見頃の日付を予測するような情報は載っていない。例えば、約1ヵ月後の11月19日(土)京都市左京区の銀閣寺の庭園がどのぐらい色づくか知りたいと思っても、現状ではそこまでピンポイントの予測情報はない。昨年度のように直前の気象の変化も影響するため、精度の高い予測を行うには、マクロの気象データだけではなく、個々の木の日照量や木々の様子などリアルタイムのミクロなデータが必要になる。

植物を相手にする農業や林業では、ミクロの気象データや植物の変化を観測することが効率アップや収量増加などに繋がるため、最近はドローンで農場を上空から撮影した画像を解析するソリューションリモートセンシングで農場の環境を計測し効率化する事例等が増加している。このようなドローン、IoT、画像解析技術を組み合わせれば、技術的には近い将来11月19日の銀閣寺の紅葉の程度を予測できるようになりそうである。さらにAI(人工知能)まで導入できるようになると予測精度は飛躍的に高くなるかもしれない。

大きな話題となったPokémon GO

話しは変わるが、今年の夏はPokémon GOが大変話題になった。7月末の日本公開後は非常に多くの人がPokémon GOをプレイしていた。幅広いユーザー層、位置情報を使ったゲーム、AR要素、緩い課金システムの成功など、スマホゲーム界に新たな風を吹き込んでいる。ただし、爆発的に盛り上がったコンテンツは負の側面も目立ってしまう。

Pokémon GOは位置情報にあわせてポケモンが出現するため、スマホの画面を確認しながらレアなポケモンを探し求めて歩くプレイヤーが増えてしまった。歩きスマホ問題だけであれば、任天堂が9月に発売したPokémon GO plusで軽減されるかもしれない。ところが9月中旬に、スマホをもった大集団が車道にはみ出し走る映像がニュースになった。

プレイヤーならご存知かと思うが、どんなポケモンがどこにいつ出現する、というピンポイントの情報はゲーム内では分からない。どうもお台場にラプラスがいるらしいぞ、という情報を耳にしてお台場に人が集まったとしても、エリアを地道に歩き回って偶然出会ったときに捕まえるという遊び方になるはずで、集団が一気に同じ方向へ移動するという現象にはなりにくい。結局これは、ポケモンの出現状況アプリが登場し、ピンポイントでレアポケモンが出現している場所、タイミングが分かるようになったため、その情報をもとに集団が一斉に移動しているようである。

ゲームの楽しみ方は様々ではあるが、レアなポケモンを効率よく捕まえたいと思うプレイヤーが増え、そのニーズに応じた情報提供が行われることは起こりうることである。ただ利用者があまりにも多かったことから、数分・数秒単位での正確な情報をもとに一極集中が発生していしまい、問題となってしまった。(他にも危険なエリアにレアなポケモンが出現すること自体が問題だ、等の様々な議論が交わされているが。)

正確なピンポイントの予測は幸せか

個人的には11月19日の京都の紅葉予測情報は欲しい。けれども、Pokémon GOのトラブルから考えるに、正確すぎる予測はときに一極集中を引き起こし、混雑や思わぬ事故に繋がりかねない。もしも今年の11月19日は銀閣寺の紅葉がここ10年で一番美しいと予測された場合、周囲のホテルはすべて満室になり、当日は京都のなかでも銀閣寺へ向かうバス、電車、タクシーが今までの紅葉シーズン以上の混雑になるだろう。もちろん、正確な予測ナシでも十分に11月の京都は混雑しているが、大原/嵐山などに分散していた観光客もが銀閣寺や見頃のスポットに集中し、今まで以上に大変な事態になると想像している。

一部の植物園などでは人気の花の開花情報を日々更新しつつ、入園料を開花状況に伴って変動させるシステムをとっている(ex.あしかがフラワーパーク)。また、祇園祭や花火大会の有料席のように、事前予約で混雑時にも顧客満足度を担保できるようにしているケースもある。もし入場料等での工夫が難しいのならば、他になんらか訪問者を分散させるような工夫が求められる。例えば、最盛期を迎えた銀閣寺の木々の樹冠にドローンを飛ばして360度カメラで撮影し、全天球イメージとして公開すれば、実際に訪れたときには見ることができない角度で紅葉を堪能できるようになる。VRが現実の体験を超えることができれば、混雑度が下がり満足度をあげることができるかもしれない。

本当は、もみじ狩りとは紅葉を見ることだけではない。旅行の計画中や計画後に、見ることのできない銀閣寺の庭木を思って日々の天候を気に懸け、葉の色を想像することも含めてもみじ狩りである。そうやって楽しみにして迎えた当日に、見頃とわずかにずれていて「来年こそは。」と少し射幸心が煽られるぐらいがいいのかも知れない。欠けたり不足している状態に趣を見出すわびさびの心だ。