医療ICTの普及に欠かせないセキュアなインフラの可用性確保

ICTの利活用による業務の高度化・効率化は、様々な分野で長らく言われ続けているテーマである。医療分野においても、電子カルテや健康情報の共有・連携に向けた取組が行われている。こうした背景を踏まえて、今回は病院等におけるICTインフラ整備に関する話題を取り上げる。

病院における電波環境の改善

病院に通院・入院した際に、携帯電話が使える場所を探して彷徨ったことがある方も多いだろう。以前は携帯電話の電波が医療機器に与える影響への懸念から、多くの病院で携帯電話の使用を大幅に制限していた。しかし、携帯電話と医療機器の双方の改良の結果、適切に管理することで深刻な影響が起こりにくいことがわかってきた。その結果、病院における携帯電話の使用制限は改善されつつある。

こうした電波環境の問題に長年取り組んできた電波環境協議会(EMCC)では、2016年4月4日に「医療機関において安心・安全に電波を利用するための手引き」と、関連する報告書を公開した。この報告書の中でも、病院内の携帯電話の使用制限が、2005年には51.6%が全面禁止であったのに対して、2015年には4.3%まで減少していることが示されている。

一方、この報告書では様々なトラブル事例も紹介されている。携帯電話や無線LANに加えて、医療機器の一種である「医用テレメータ」(心電図モニタなど)でも、「電波が届かない」「混信やノイズの発生」「他機器等からの電磁ノイズによる干渉」「近接病院間での無線チャンネル干渉」などのトラブルが起きている。特に、省エネ対策として最近導入が増えているLED照明器具による干渉は、注目すべき事例だろう。

電波環境が改善されないままだと、せっかく導入した医療関係の設備が、いざというときに使えない可能性がある。医用テレメータの電波が途切れれば、病室の患者のモニタリングがナースステーションからできなくなる。無線LANを使ったタブレット端末で医療画像を確認する仕組みや、携帯電話で医師を呼び出す仕組みを導入しても、電波環境の改善無しには、安心して使うことができないだろう。

病院システムにおけるクラウドの活用

病院のICT利活用の本丸は、医療情報システムを中心とした病院システムだろう。カルテや医療画像の管理に加えて、医療分野におけるIoT活用の流れから、今後はより多くの情報を取り扱うことが想定される。国の施策としても、例えば「平成27年版情報通信白書」の「医療・介護・健康分野におけるICT利活用の推進」の項目で、次の通りクラウド活用による普及をうたっている。

中小の診療所も含めた医療情報連携を推進するためには、クラウド等を活用した低廉なモデルの普及・展開が必要である。

しかし、病院システムでは患者等の機微な情報(既往歴などを含む)を取り扱うため、セキュリティ対策に万全を尽くすことが求められている。国内でも、医療機関が民間事業者のクラウドサービスを利用する際には、3省(厚生労働省、総務省、経済産業省)が定めた4つのガイドライン(「3省4ガイドライン」と呼ばれる)に示されたセキュリティ対策が必要である。

そこで最近では、3省4ガイドラインを守りつつ、IoT等の新しいアプリケーションにも柔軟に対応できるクラウドサービスに期待が集まっている。医療情報をクラウドサービスで取り扱うことについて、セキュリティ上の問題から不安視する声もよく聞かれる。確かに病院の外にデータを持ち出すことや、悪意を持つ第三者によるネットワーク経由の不正アクセス等により、漏えいするリスクは高まる。しかし、病院内に設置したオンプレミスの病院システムにも、運用管理やシステムの冗長化に関してリスクがある。つまりクラウドでもオンプレミスでも一長一短あるので、その特性に応じて適切なセキュリティ対策を施すことが重要である。

3省4ガイドラインに対応したクラウドサービスの利用は、まずはプライベートクラウドを中心に推進されている。また、パブリッククラウドについても、例えばMicrosoft Azureについて、MRIを中心に3省4ガイドラインへの対応状況をまとめた資料を公開している。今後の病院システムにおけるクラウドの利用促進に期待したい。

セキュアなインフラ整備が重要

近年のIoTやAIのキーワードに関連した技術革新には目を見張るものがある。医療分野もその例外では無く、生体センサ等からのデータを収集・分析するなど、様々なICT利活用サービスが登場するだろう。

そのような新たなICTサービスが広く普及するためには、セキュアなICT基盤(インフラ)が整っていることが必要条件となる。「セキュアな」と言った場合、医療分野では機密性の確保に重点が置かれがちだが、それに加えて可用性の確保も重要である。一時を争う急性期治療では途切れなくデータが収集できることが求められる。また、せっかく収集した過去のデータが、診療時や、場合によっては災害時に使えないのでは意味が無い。

今回紹介した病院における電波環境の改善や、病院システムにおけるクラウド活用は、こうしたセキュアなインフラの可用性確保に大きく寄与するだろう。