最近になって、IoLTという言葉に遭遇した。LTは”Living Thing”で、ポータブルDNAシーケンサを発売した企業の長期ビジョンとのこと。自分や周辺の生物のDNAをインターネット経由で送るほか、食品工場の生産設備、排水設備等にセンサーを取り付けて食品媒介病原菌の存在や動きを追う等の構想だ。工場の設備強化という点で、IoLTは目新しい例だが、工場の設備におけるIoTの影響について、ドイツのインダストリー4.0の動向と絡めて考察したい。
インダストリー4.0の標準化戦略に含まれる『ライフサイクル』に深い狙いがあるのか
インダストリー4.0は、『ドイツ政府の高度技術戦略「ハイテク戦略2020行動計画」(2011年)の一環として開始された情報通信技術の製造分野への統合を目指すコンセプト』だ。IoTの潮流を製造業に取り込もうとする代表的な取り組みで、機器同士の通信による生産調整の自動化などが実現される。
2015年には、標準化戦略の一環として、『インダストリー4.0 リファレンスアーキテクチャモデル(RAMI 4.0)』という文書が、ドイツ電気・電子工業連盟(ZVEI)等から発行された。この中にも含まれる「ライフサイクル」に深い狙いがあるように思える。
『ライフサイクル』で重視される互換性
上述のZVEIが2012年に発行した「オートメーション製品・システムのライフサイクル管理」という文書は、文字通り製品やシステムのライフサイクルについて定義している。製品の型と、型から作る具体的な製造物のライフサイクルを定義する傍らで、互換性モデルも定義している。「機能」、「デバイス」、「場所」のカテゴリに分けて互換性度合いを評価し、製品の互換性プロファイルとする。
例えば、機能のカテゴリには、計測制御の処理結果やデータ型などのインターフェイス等を含む。同様にデバイスのカテゴリには寸法や電源等を、場所のカテゴリにはEMC(電磁両立性)や気候条件等を含む。これらは、製品を交換する際の選定基準として有用だろう。
同文書の締めくくりはライフサイクルエクセレンスという、本稿のタイトルにも含めた新しいコンセプトが打ち出されている。互換性や経済性などの観点からロバストな製品を評価する枠組みだ。
自動化をどこまで追求するべきなのか
インダストリー4.0の世界では、製造機器・部品を工場自身が自ら設計・選定するようになる。 生産ラインの再配置が自動化され、多品種変量生産が、低コスト化されスピードアップする。 これを実現するため、互換性や経済性の優れた製造機器・部品には、ライフサイクルエクセレンス認証が発行されるようになる。交換部品の選定には、機械による検索で互換性プロファイルに優れることが重視される。 そうなると、製品カタログは人の検索向けではなく、機械の検索向けに最適化されることになるだろう。
ただし、製造機器・部品に対する認証が登場すると、市場の囲い込みやそれに対応する追加費用がかかる。インダストリー4.0の完全自動化した工場を目指すのであれば、避けて通れないのかもしれないが、こうした標準対応や認証対応に予算を奪われかねないことを懸念する。いずれにしても、ドイツが先行し、得意とする認証の動向には要注意である。
ライン再配置の自動化は大きな効率化も生み出すが、そこに向けた変革コストも多大である。どこまで自動化するのか、それが問題である。
本文中のリンク・関連リンク:
- ポータブルDNAシーケンサMinIONを発売したOxford Nanopore社の掲げる “internet of living things.”ビジョンを解説した記事: Portable DNA Sequencer MinION Helps Build the Internet of Living Things – IEEE Spectrum
- 日本貿易振興機構(ジェトロ)ブリュッセル事務所による ドイツ「Industrie 4.0」とEUにおける先端製造技術の取り組みに関する動向調査レポート(2014年6月)
- 川野俊充氏によるRAMI4.0解説記事 – MONOist(モノイスト) インダストリー4.0がいよいよ具体化、ドイツで「実践戦略」が公開