現行システムでのIT利活用によりスピードアップを図る技術

IT利活用によるスピードアップは、新たな業務エリアに対応する新サービスの導入や新技術の導入といった文脈で語られることが多い。しかし、現行システムの制約のもとでも、IT利活用によるスピードアップを図ることは非常に重要である。たとえば、アプリケーション開発における影響調査工数の削減は、新機能リリースや改修までの期間短縮だけでなく、コストや品質への好影響が見込まれる。

現在、様々な効率化ツールの取込みや、外部サービスの活用などに取り組んでいるIT部門は多いだろう。本コラムでは、すでに稼働している現行システムに対して、IT利活用によりスピードアップを図るための技術を取り上げる。

アプリケーション開発におけるスピードアップ

アプリケーション開発においてスピードアップを図るための技術には、さまざまなものが存在する。ここでは、すでに稼働している現行システムに対して適用可能なものを次に挙げる。

  • 業務要件、システム要件を早く定めるための要求開発・要求管理技術の導入
  • 改修影響範囲を早く見極め、改修漏れを防止するリバースエンジニアリング技術の利用
  • 設計・コーディングの効率向上にも寄与する統合開発環境の利用
  • テストを効率的に計画・実行するテスト支援/自動化ツールの導入

上記のような技術の適用で、新機能リリースや機能改修のスピードアップを図ることが可能である。特に、改修影響範囲の見極めにはかなりの工数を要したり、見極めのできる人材が限られていることもあり、IT部門にとっては特に効果が見込まれるものである。

システム環境面におけるスピードアップ

現行システムの運用・保守にあたっては、システム環境面における運用負荷の低減に取り組むことも、結果的に新機能リリースや機能改修のスピードアップにつながる。次にあげる技術は、現行システムに対して適用可能なものである。

  • IaaSの活用
  • サーバ仮想環境の活用
  • データ抽出やデータマスクを支援するツールの活用

上記のような技術は、日々のシステム環境の運用におけるスピードアップを図り、負荷を下げるためにも有効である。その上、テスト環境に関するスピードアップにも次のような効果があることに注目したい。

現行システムのテストにおいては、新機能のリリースや不具合対応での改修結果確認などのためには、テスト環境の準備時間も無視できない。特に、必要なリグレッションテストのデータがそろった環境を用意する時間が短縮できれば効果は大きい。そのためには、データ活用の促進のために導入されるデータ統合管理基盤(Informatica、Infosphere、Talend Data Fabric等)や、データ管理そのものの仮想化を目指す製品の活用も視野に入れて考えたい。

ここで紹介したシステム環境面のスピードアップを図る技術は、すでに普及しているものも多いが、環境調達・設定の工数を劇的に軽減できる。少し前に喧伝されたDevOpsの考え方を実現するためにも必要なことである。

ガバナンスの向上によるスピードアップ

機能改修、リリースに関わる直接のスピードアップではないものの、ガバナンスを向上させることで、IT部門全体の業務のスピードアップを図る技術もある。たとえば、次にあげる技術の導入により、業務のスピードアップが期待できる。

  • CMDB(構成・変更管理)の導入
  • サービスデスクサポートツール(インシデント管理等)の導入
  • IT資産管理の導入
  • プロジェクトマネジメント手法の改善(CCPM等)
現行システムでのIT利活用によりスピードアップを図る技術
出所:三菱総合研究所

即効性のあるIT利活用

今回紹介したIT利活用の各手法は、個々には既知の事項が多かったかもしれない。しかし、すでに稼働している現行システムに対してIT利活用によりスピードアップを図ることは、効果をすぐに享受できるという点で優れている。現行システムの保守・改修に取り組んでいるIT部門の方には、ぜひ取り組んでいただきたい分野である。