技術革新がもたらす「職」の変化 ~ システム構築現場はどうなるか ~

ロボットが東大に合格する日が来る!?

受験シーズンが来た。受験生は、日々の勉強の成果が十分発揮できるか緊張と不安を持って試験会場に臨む。そして、合格発表での何とも言えないドキドキ感は今でも記憶に鮮明に残っている。

「東ロボくん」をご存知だろうか。国立情報科学研究所(NII)が2021年に東京大学の入試突破を目指している受験生だ。「ロボットは東大に入れるか」というプロジェクトで開発された「東ロボくん」は、人工知能(AI)を駆使して開発されたロボット。「AIが人間に取って代わる可能性のある分野は何か」を考える際の指標、AIの進化の客観的なベンチマークを指し示すことがプロジェクトの狙いだ。何と大学入試センター試験模試で偏差値57.8、数学と世界史の計3科目で偏差値60を超える成績を記録している。この成績は、私立大学の441大学1055学部、国公立大学の33大学39学部で合格可能性80%以上に相当するというから驚きだ。

身近なところで始まりつつある技術革新

実際にロボットが大学に入学する訳ではないが、テクノロジの進歩で我々の身近な業務やサービスは着実に変化しつつある。例えば、ネットショップ。膨大な商品を倉庫からロボットがピックアップして配送トラックに運び、人工知能で渋滞状況を分析して最短経路を設定し、自動走行で配達したり、無人ヘリコプター(ドローン)が配達するという世界も現実味を帯びてきている。

百貨店の受付で、人型ロボットが言葉での質問に考えて答えて対応してくれたというニュースも耳にした。医療や法律など人間には一生かかっても読み尽せない膨大な医療文献・症例週や法律文書・判決例を分析し、最適な解釈や判断基準を示し、医療診断や法律解釈を助けてくれるアドバイザなど研究も進んでいる。

今後人間の「職」というものが大きく変化する兆しを示すものとして、世界経済フォーラム(WEF)の試算結果が発表されている。技術革新により、先進・新興合わせて15の主要国・地域で20年までに約700万人の職が失われる一方、200万人分が創出されるそうだ。その内訳としては、管理などホワイトカラーの仕事が失われる職の3分の2を占め、コンピュータと数学、建築や工学関連の仕事は増えると予想されている。

大学でもScience(科学),Technology(技術),Engineering(工学),Mathematics(数学)の頭文字をつないだSTEM関連の産業界でのエンジニア・研究者の需要急増を受け、米国は2012年に今後10年でSTEM人材を100万人増やすとの数値目標を掲げて教育環境の充実を進めている。

4つのテクノロジが技術革新を実現させる

技術革新は大きく4つの領域で進んできており、これらの技術を融合することで、人間にしか出来なかったことを「代替」・「効率化」することや、人間には出来なかった・困難であったことを可能にし、人間の能力を拡張できるように「助言」「強化」することが可能となる。これが「職」が失われると言われる所以である。


1.ビックデータ(脳(知識源))

スマホ、SNS、IoTが普及し、オンラインショッピングサイトやブログサイトにおいて蓄積される購入履歴や入力履歴、SNSで参加者が書き込むプロフィールやコメント等のソーシャルメディアデータなど、日常生活や社会活動などの現実世界のデジタルデータ化が加速している。このような膨大なデータを生成・収集・蓄積することが可能・容易になってきており、異変の察知や近未来の予測等を通じ、利用者個々のニーズに即したサービスの提供、業務効率化や新ビジネス創出が可能になってきている。

2.ハードウェア(手足)

コンピュータは高性能化とコスト低減が加速化してきており、ビックデータを格納する受け皿となり得る分析の強力なエンジンとしての利用が可能になってきている。加えて、センサーやコンピュータの小型・高性能・低価格化はウェラブルやロボット、IoTを普及させ、現実世界のデータを収集・利用する手段として利用が進んでいる。

3.アルゴリズム(脳(賢さ))

機械学習やディープラーニング、神経言語プログラミングなどのアルゴリズムが開発され、状況分析や判断、最適なルールの生成や解釈など自律的行動に必要な知識の生成が可能になってきている。

4.ネットワーク(神経)

スマホやウェラブル、センサーなどは低消費電力で常に繋がる状態が実現できている。高速かつ大容量のネットワークは、膨大なデータを収集し、その結果をフィードバックするのに欠かせないが、ハードウェアと同様に高速化とコスト低減が加速し普及が進んでいる。


技術革新の4つの領域

図.職に変化をもたらす技術革新の4つの領域

システム構築現場でも自動化・自律化は進むが、匠の世界は健在

システム開発やプロジェクトマネジメントはこの潮流に意外と取り残されている感があるが、システム開発におけるプログラムコードの自動生成やテストの自動化が進んでいる。さらに、システム改修時の影響調査で膨大なプログラムソースを解析したDBを活用し、従来人手で調査分析していた領域の自動化・効率化も進んでいる。しかし、分析結果を説明する際の緩急つけた迫力あるプレゼンテーションや、時には理不尽さを感じるような様々な経験の中で磨いてきた勘所に基づく意思決定を行う「匠の世界」は、テクノロジで支援は出来ても自動化・代替は難しい領域である。
プロジェクトマネジメントはコミュニケーション管理が非常に重要である。たとえば、自身のプロジェクト成功のポイントとしては、次の点をよく挙げている。

  • 具体的なプロジェクトの数値目標を設定し、共通認識を持つ
  • 現場のインタビューによる数字では表せない定性的な問題を炙り出す
  • 利用部門、システム部門のニーズ・整合性を常に確保する協働体制(コラボレーション)を構築する
  • 関係者の目的的な関与(機動的な会議体の設定)を促す
  • プロジェクト関与者のモチベーションアップに努める

属人化の排除・標準化の促進をしつつ、効率化・手順化を徹底するなど、テクノロジで出来ることは極限までテクノロジに任せ、人間としてのコミュニケーション管理に特化することで、システム構築関連の「職」は一層インテリジェント性を高め、今までより魅力ある職へと変貌を遂げる可能性を秘めている。技術革新は「人間にしかできない業務とは何か」「価値のある業務とは何か」を真剣に考えなさいと我々に突き付けている。