ハイレゾってなんだ?
3年位前から、高音質の音楽再生をハイレゾ(High Resolution Audio:高解像度オーディオ)と呼ぶようになってきたが、漠然とハイレゾ=高音質という印象はあっても、なにがハイレゾでどの程度いい音なのかしっかり把握できている人は少ない。ではここ数年、世間はプラシーボ効果のようにハイレゾ=高音質を刷り込まれ、高額な商品を買わされて良い音を聴いていると思い込まされているのであろうか。
ハイレゾの普及と呼応するようにポタアン(ポータブルアンプ)、USB-DAC、数万~数十万円するイヤホン・ヘッドホンが次々に発売され、一部の量販店にはこれらを一堂に会したハイレゾコーナーまで用意されている。ハイレゾ配信も、国内だけでもmora、e-onkyo、OTOTOY、music.jpが対応しており、コンテンツは増加中でどのサイトも賑やかにハイレゾを強調している。再生機器側では、ハイレゾ対応と謳われるポータブルプレーヤーがぞくぞく発売され、従来製品の延長上のものや、なかにはAstell&Kern AK380のように50万円もする高額な商品もある。
費用対効果が分かりずらい状況だが、素材と機器を吟味すればハイレゾは標準的なリスナーにもハッキリと違いが分かる、CDを超える素晴らしい音楽を奏でるのである。関連するソフトウェア、ハードウェアとも進化を続けるホットな分野で、ユーザーのリスニングスタイルの変革、メディアから配信・ストリーミングへの潮流などが絡み、業界が時代の濁流にのまれている状態である。
ハイレゾの定義
実は、国内では2つのハイレゾに関する定義(JEITA(電子情報技術産業協会)と日本オーディオ協会)があるが、概要としては「CDを超える情報量を持つオーディオ再生はハイレゾ」と両者は定義している。ちなみに海外ではこのような規格はなく、単にHigh Definition Audioと呼ばれている。混沌としたハイレゾの世界に、分かりやすいロゴで光を照らす意図があるのだろう。
しかし、CDを超える情報量をもつ音楽メディアは2000年に入って既にSACD(Super Audio CD)、DVD-Audio、Blu-ray Audioなどによって規格化、製品化されている。これらの先駆者たちは残念ながらいずれも廃れてしまい、どれも現在のハイレゾの一部として語られることはない。では、これらの先駆者と、今流行っているハイレゾとは何が違うのだろうか。
ハイレゾの混乱
ハイレゾをここまでメジャーに押し上げたのは次の2点が主要因だろう。音楽リスナーの多くがポータブルプレーヤーを利用して聴いていることと、PCやタブレットを利用した楽曲のネットワーク配信・収集が一般的になったことである。これらの視聴スタイルに共通することは、楽曲がファイルとして管理されており、従来の音楽メディアの束縛から解放されたことである。ポータブルプレーヤーの記憶容量が増え、所有する楽曲すべてを収録してもまだ音質を向上できるスペースができたことも大きい。ハイレゾには高音質であるという特徴とともに、手軽でポータブルであるという特徴もある。
一方、規格化されたメディアがないことにより複数のファイルフォーマットや符号化方式が乱立し、玉石混交な状態となっている。CDを超える高音質なシステムであるハイレゾだが、器が広がっただけで、コンテンツの品質が重要なのは従来と変わっていない。そして同じくらい重要なことは、その優良なコンテンツをいかに劣化させずに耳まで届けるか、である。
- 制作過程
- 原音 → 録音 → 編集 → マスタ作成 →【音楽データ】
- 再生過程
- 【音楽データ】→ データ読込 → DA変換 → アンプ → スピーカー
上記プロセスの源流からハイレゾで統一出来ればそれに越したことはないが、いまだハイレゾが確立していないためハイレゾ録音はまだ少ない。しかし、録音や編集段階の高音質な状態からハイレゾフォーマットの音楽データを作成(リマスター)すれば、CDを超えるクオリティが得られる可能性はある。30年間聞き古したアルバムをリマスターしたDSDを聴く機会があったが、新曲を聴いているような新鮮さがあった。ちなみにDSD(Direct Stream Digital)とはハイレゾの最も注目されている配信形式であるが、前述のSACDに用いられた形式で、先駆者が蓄積した資産を継続していることが分かる。
そして、ハイレゾを生かすも殺すも下流が重要であることは間違いない。データ読込(最近ではレンダラーとも呼ぶ)とDA(デジタルアナログ)変換はハイレゾ対応が必須だが、それ以降のアナログ領域では従来のHiFiの世界なのである。よって、古い製品でも高音質なアンプ、スピーカーはハイレゾに対応しているのである。
ハイレゾかつイージーリスニング
現時点でハイレゾを楽しむには、ハイレゾ配信サイトにてデータをダウンロードして、PCやハイレゾ対応のネットワークプレーヤー、ポータブルプレーヤーで再生するのが一般的である。据え置き型のコンポーネントステレオでしっかり腰を据えて聴くというより、ヘッドホン・イヤホンで「ながら」で聴くスタイルが主流だろう。コストパフォーマンスとイージーさが求められており、このリスニングスタイルがハイレゾを後押ししている。
ポータブルで手軽で他人に迷惑をかけないという意味ではヘッドホン・イヤホンは最適ではあるが、音像が頭の中心に定位するのでアーティストが意図している音楽では必ずしもないことが弱点である。そこでハイレゾの高音質を堪能しつつ、イージーリスニングに対応した、ニアフィールドリスニングをお勧めしたい。
ニアフィールドリスニングは、小型で30cm~50cmくらいがリスニングポジションに設定されているスピーカーで、小音量で主に中音域~高音までの響きを堪能する視聴方法である。ハイレゾが得意とする高音再生にマッチし、音像が前方に定位するので解像度の高さがさらに極まる。音楽のジャンルによっては低音が貧弱なので物足りないかもしれないが、ヘッドホン派の方々には普段の楽曲が別物に聴こえるので、是非試して頂きたい。
個人的には、一年の中で冬が音楽鑑賞のベストシーズンで、特に夜中が最適だと思っている。ハイレゾ一式を買い揃えられなくとも、夜更かしついでに「ながら」のニアフィールドリスニングで普段よりちょっといい音を聴きながら、今年一年の疲れを癒すのはいかがだろうか。