アメフトからアマチュアスポーツ×ICTを占う

2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向け、国内ではスポーツにICTを活用する取り組みが加速している。今年の8月、総務省では「スポーツ×ICTワーキンググループ」を立ち上げた 。そこには「ICTの活用により、スポーツ分野の裾野を拡大、スポーツ人口やファンを増加させることで、スポーツ市場の活性化を目指す」とあり、国の代表選手育成だけでなく、アマチュア選手やファン向けのICTに目が向けられていることがわかる。

では、現在ICTの活用が進んでいるスポーツは何かと考えると、日々の練習からICTをインフラとして完全に取り込んでいるスポーツである”アメリカンフットボール”(アメフト)はその一つと言える。社会人チームだけでなく、学生チームでも必要に迫られてICTの活用が進んでいる。国内ではマイナースポーツのアメフトの、とくに学生アメフトチームでのICT化は、今後のアマチュアスポーツのICT化動向を考えるうえで、参考事例となるだろう。

戦術のスポーツと呼ばれるアメリカンフットボール

先日W杯で歴史的勝利をおさめたラグビーと混同されやすいアメリカンフットボールだが、「楕円球を使う激しいコンタクトスポーツ」という特徴以外は、ラグビーよりも野球に近いルールである。詳細は割愛させていただくが、野球のように攻撃と守備が分かれ、1プレイが明確に区切られている。一方で野球のようにピッチャーとバッターの1対1という構図はなく、フィールドにいる11対11がプレイ開始のホイッスルとともに一気にぶつかりあう。このぶつかり方は全プレイ、ホイッスルの合間にコーチや分析スタッフが過去のデータや現在の試合運びから11人の陣形・攻め方・守り方を判断し、フィールドの選手に(ときには暗号を駆使して!)伝えている。この、1プレイ1プレイを支えるICTを少し紹介したい。

アメフト×ICT

まず、試合映像の共有・編集がある。アメフトでは学生チームでも必ず、対戦相手の過去数年分の試合映像や自分たちの練習・試合の映像を統計的に分析する。そのため強豪校ではコーチ・分析スタッフ、選手合わせて20人以上の態勢で分析を行う。90年代はビデオテープ、2000年代はDVDを見ながら映像を編集・分析していた。ゼロ年代後半には自前でサーバを構築し、PC端末上で再生・編集するチームもでてきていたが、さすがに自前サーバを安定的に運用するには金銭的・人材的にチームへの負担が大きかった。そこへ2010年代にはいってから、クラウド上での動画共有・編集ができるHudl というサービスが爆発的に浸透している。5年前までは多くのチームが数百本のDVDやビデオテープを保管し、十数台のDVDレコーダーが発する熱気に囲まれミーティングや分析を行っていた。それがHudlによって映像を自宅のPCや個人のスマホで確認・編集できるようになった。格段に分析の効率化が進んでいる。

次に紹介したいのはワイヤレス・インターカムの利用である。試合中、スタンドの上や櫓からフィールドを見下ろして陣形等を確認する「スポッター」と、フィールドのサイドラインから選手の様子をつぶさに見ながら指示を出すコーチがコミュニケーションするために、ヘッドセット(インカム)をつけている。学生チームでも強豪校であれば、ワイヤレスインカムと待機系として有線インカムを所有し、全試合でインカムを運用している。※たまに誤解されるが、日本では選手はインカムをつけていない。(米国のNFLではインカム内蔵ヘルメットの利用が許可されているが。)

と、ここまで読んでいただいた方は、もっとICTを活用してアメフトチームを効率的に強くできるのではと感じるのではないかだろうか。その通りである。たとえば画像解析技術で自動的にプレイを分類・分析できるとコーチ・選手の負担は大きく下がる。また高価なインカムではなく、スマートフォンアプリ等を駆使した安価な手段も考えられる。ところがまだブレイクスルーできていない。既存技術でできそうなことだとしても、それはICTに強い人間がいることが必要条件である。アメフト好きが集まったチームに、ICTリテラシの高い人材は少なく、既存サービスの利用以上に踏み込むことが難しい。学生チームでのICT活用で最も大きな課題は資金不足以上に人材不足である。ICTの導入がチーム力に直結するともいえるアメフトですら、人材不足は越えられないハードルになっている。他のアマチュアスポーツにとっても、今後同様の状況になるだろう。

ICT人材の新たな活躍の場としてのスポーツ

一つ、アメフトと技術力がうまくかみ合ってるのではと思う事例がある。関西学生アメリカンフットボールリーグでは、トップリーグに所属する8大学の試合映像が全試合インターネット配信されている。撮影・配信は一般社団法人リコネクトテレビジョン(rtv) という、立命館大学OBと現学生スタッフが運営する団体が担っている。学生中心の団体だが、ほとんどの試合にアナウンサー・解説者によるコメントが入り、テレビのスポーツ番組と遜色ないクオリティの映像をUSTREAM上で提供している。始めは立命館大学の試合を中心に撮影していたようだが、関西学生アメフト連盟と協力体制を組み、今では大学だけでなく中高アメフト部の試合まで放送している。技術力のある人材とスポーツがうまくマッチングした事例ではないか。

どこかで自分のICT関連技術を生かせないかと考えている人、スポーツに関心はあるが選手になりたいわけではない人にとって、スポーツ×ICTは新たな活躍の場となる。「ICTの活用によってスポーツの裾野を拡大する」だけではなく、スポーツに縁遠いと感じていた人に、「あなたの技術力がスポーツを飛躍的に成長させる」、というメッセージも打ち出してはどうか。日本のスポーツが変わる可能性を秘めている。