この半年程度で「FinTech」の注目度が急速に高まっており、テレビ・一般紙でも目にする機会が増えた。海外では数年前から注目されており、今年6月にはWorld Economic ForumがFinTechの動向を整理したレポートを出している。
あらゆる金融サービスがFinTechの対象。技術的には既存技術の応用が中心
FinTechは金融とテクノロジー(ICTであることがほとんどだ)を組み合わせた金融サービスである。日本では、資産管理ツールのマネーフォワード、クラウド型会計ソフトのfreee、スマホを利用したクレジットカード決済端末Square・Coiney、手数料率0%のオンライン決済サービスSPIKE等が代表的だ。
日本でも海外でも主なプレーヤーはベンチャー企業であり、革新的なサービスを低価格で提供することにより、利便性の向上にとどまらず、金融サービスのあり方まで変えるのではないかと期待されている。 前述のレポートではFinTechを決済、保険、融資、資本調達、投資マネジメント、取引システムの6つの分野に分け、鍵となるトレンド、動向、金融業界に与える影響を整理している。銀行・証券・保険・決済等、あらゆる金融サービスが関係することがわかる。
一方で、FinTechの「Tech(技術)」について見ると、P2P、ビッグデータ、IoT、SNS、機械学習・AI、暗号技術など、別の分野で開発された、あるいは注目されている技術の応用が中心だ。FinTech用に開発された技術というよりも、金融分野に応用した点が新しいといえる。
たとえば前述のSquareの場合は、加盟店審査を旧来型の事前審査ではなく、トランザクションの動向をチェックしながら不正な取引があればすぐにブロックできるようにしている(ビッグデータ(ストリーム処理))。また、保険分野では、自動車の走行データや被保険者のスマートウォッチから取得したバイタルデータを用いて損保・生保の保険料を最適化する動きがある(IoT)。証券分野では、自分の属性や投資に対する考え方を入力すると、最適な投資ポートフォリオや投資商品をアドバイスしてくれる「ロボアドバイザー」と呼ばれるサービスが登場している(機械学習・AI)。
普及の鍵は「統合」
現在は資産管理、決済など、それぞれの分野で新たなFinTechサービスが続々と登場している。競争は激しくなってきており、各サービスの使い勝手向上と手数料の低下が続く可能性が高い。これは利用者にとっても歓迎すべきことだが、一方で、便利なサービスと言えども多数のサービスが林立してしまっては使いにくいともいえる。結果として一部の先進的な消費者のみが使いこなせるサービスとなってしまってはもったいない(冗談であってほしいが、「FinTechサービスを探すためのFinTechサービス」が必要となるかもしれない)。
先進的な消費者だけでなく、より一般的な消費者にまですそ野を広げるにはどうすればよいだろうか。2つの方向性が考えられる。
ひとつは既存の大手金融機関がFinTechを取り込むことだ。 たとえば三菱東京UFJ銀行はFinTechのコンテストを開催している。決済分野では、クレディセゾンがマネーフォワードやコイニー、freeeなどと提携を進めている。既存の金融機関が後ろ盾となっているため、ベンチャー企業のサービスということで利用に二の足を踏んでいた消費者も安心して利用することができる。
もうひとつは新規参入者がFinTechサービスを統合したサービスを提供する可能性だ。 ベンチャー企業がプレーヤーとなる可能性もあるが、安心感の確保ということを考えると、ネット企業や通信キャリアといった異業種の大手企業の方が受け入れられやすそうだ。
FinTechの普及はまだ始まったばかりだ。いずれのパターンにせよ、私たちが利用する金融サービスがより良くなっていく方向であることは間違いない。FinTechに取り組む企業には、新サービスの開発だけでなく信頼感・安心感の醸成にも期待したい。また、私たちも積極的にサービスを利用し、普及の後押しをしていきたい。