昨今のインフラ技術の進展によりハードウエアに関するコストが大幅に低減している中、システムコストの中で、ますます大きな割合を占めるのが、開発・保守・運用といった作業にかかる人間系のコストである。
中でも、保守・運用のコストは、業務に影響しないように、また、制度・ルール等の変化に対応しながら現行システムを動かし続けなくてはいけないため、なかなか手を付けにくいのが実情だ。
しかしながら、システム運用・保守の改善に継続的に取り組むことは、コスト面での直接的な効果の享受だけではなく、さまざまな好循環につながる。以下では、保守・運用の継続的な改善への取り組みについてご紹介したい。
運用・保守の現場によく見られる現象
運用保守の実態を確認すると以下のような現象がよくみられる。
<予算実績管理の形骸化>
- 作業報告と実態がかい離している
- 前年踏襲で予算化を行うものの、実績がどうであったかを反映していない
<担当の硬直化>
- 特に保守では、システム別に担当が決まっていて、担当割が硬直化している
- ベテランの担当者に対しては、リーダといえども口を出しにくい 等
<間接作業の増大>
- 本来的なシステム部門の付加価値作業でない、作業報告作成の時間が多い(時には、契約元のベンダへの報告が過重な場合もある)
- 役割分担が不適切で、チーム間や担当者間での調整時間やインシデント対応引継ぎに要する時間が非常に長い 等
<ユーザ部門との関係に潜む無駄>
- ユーザからの問い合わせに対して回答に至るまでの経路が確立しておらず、やり取りに無駄が生じている
- 何度も来る問い合わせに対して、毎回同じような回答をバラバラに返している
- 利用実態を把握していないため、ユーザと交渉すれば低減できる運用水準・保守水準であるにもかかわらず、手を付けていない 等
改善の糸口をどうつかむか
特に「タコツボ化」しやすいシステム運用・運用組織の改善を推進するためには、異なる立場のリーダやメンバが納得できるファクトデータをもとにして、施策を検討することが有効である。
<問い合わせ対応・インシデント管理の可視化>
まず、自らの業務そのものを明示的に管理することが求められる。 ユーザからの問い合わせ対応への対応品質を向上したりムラを減らしたりするために、問い合わせ対応のための仕組みを持っているシステム部門が多い。しかしながら、依頼や問い合わせに関連して発生する保守作業等まで、シームレスに管理が連携できている組織はまだ少ない。
<作業実態の可視化>
さらに、作業実態の把握が何よりも大切である。
(作業実態の把握の水準)
- Level1
- 月次・チーム別・人別の作業時間報告(日次の作業時間と総時間)
- Level2
- 作業分類表に基づく月次・チーム別・人別の作業報告
- Level3
- 作業分類表に基づく日次・チーム別・人別の作業報告
- Level4
- 案件管理・作業分類と紐づいた日次・チーム別・人別の作業報告
- Level5
- 案件管理・インシデント管理・作業分類と紐づいた日次・チーム別・人別の作業時間報告
外注費の支払いという観点からはLevel1の報告だけで済ませていることが多いのではないだろうか。
上記におけるLevel2の管理ができると、各種の作業の多寡を認識して、メンバにも納得感のある適正な作業割り振りを検討することが可能になる。また、だれもが明示的に認識している間接作業をどう削減するかといった課題について、リーダときちんと検討できるようになる。
Level3は、Level4以上の管理に向けて通らなくてはいけない道である。日々の作業報告管理ができていれば、Level4、5への心理的障壁もなく、むしろ日常業務の中で報告を簡便に済ませられるのであれば、受け入れられやすい。ただし、Level5に至るためには、インシデント管理の仕組みとの連携や拡張など、情報システム部門業務そのものを支援する情報システムの仕組みが必要となる。
作業報告は、会議時間や立ち話での調整など、さまざまな時間があるため、現実的にはEXCELもしくはWeb上の専用画面での管理となっていることがほとんどである。しかしながら、たとえば常駐SEが自社向けと顧客向けの双方の作業報告を作成すること等は、かなりの作業負荷を強いている。インシデント管理や作業報告の仕組みに協力企業が日々入力したデータは、協力企業にも提供するなどの配慮は、発注側にも求められる。
これらができることで、間接作業の増大の原因を探り、改善点を協議して実施に移していくことが可能となる。また、ユーザ部門への対応の際も、問合せ数や対応に要した時間の実態は大きな武器となる。
<保守対象システムそのものの可視化>
保守担当者が固定化したり、保守品質もの問題が生じる大きな原因の一つが、特定の担当者だけが設計を熟知しているシステムの存在である。こういったシステムは、他のメンバでは保守作業ができなかったり、特定の担当者の「我流」のメンテナンスが改善されないままに繰り返されていることがある。 こういった状況を打破するためには、保守対象のアプリケーションシステムそのものを、だれが見てもわかるように可視化することが、1つの解決策となる。
アプリケーションシステムの内容を可視化するためには、小規模システムでは担当同士の勉強会といったことも有効である。大規模なシステムの場合、アプリケーション可視化サービスなどのサービスやツールを活用して取り組むことが可能である。
運用・保守改善がもたらすコストだけでないメリット
運用・保守の改善によりもたらされるメリットは、システム品質の向上や、運用・保守体制の筋肉質化に伴うコスト低減だけではない。
- 担当の固定化からの脱却により、要員配置を柔軟化できる
- さまざまなことが可視化されることにより、要員育成がやりやすくなる
情報システム部門の発生費用の大きな部分を占め、古くから効率化の必要性が言われながらも、本格的に手を付けることができていない組織が多いのではないだろうか。自らの業務を効率化しながら、きちんと自分たちの業務を計数的にも管理することが重要である。「紺屋の白袴」とならないように、ツールや支援システムを活用し、組織的な改善活動につなげていくことをお勧めする。