オリンピックエンブレム問題から見る画像検索技術

最近、オリンピック・パラリンピックのエンブレムのデザインが話題だ。 デザイナーが発表している過去のデザインについての盗用疑惑がオリンピック・パラリンピックのエンブレムにも広がり、結局、デザイナー本人が取り下げることになり、白紙撤回された形だ。

ところで、今回の騒動の対象になったエンブレムと似たものを探し出すのにどんな方法を使ったのだろうか?つまり、ある画像に似た画像を探すにはどうしているのだろうか? 実はこうした画像検索と呼ばれる分野にも最新のAI技術が使われている。

実用化されているGoogleの画像検索技術

もっともよく知られているサービスは、Googleのイメージ検索だろう。キーワードを入力すれば、関連する画像を検索できる。画像にひもづいたキーワードに基づいて検索されるものである。 例えば、過去のオリンピックで使われたロゴは簡単に見つけられるだろう。 一方、カメラのアイコンをクリックして、画像を入力することで検索することもできる。これは類似画像検索と呼ばれる方式で、入力した画像の特徴に近いものを探すことができる。入力した画像と完全に一致するものを探すのにも使える。手持ちの写真やWebで見られる画像等を入力してみれば、傾向がわかるだろう。全体の色合いや構成にあった画像が検索できる。今回の騒動では、エンブレムの展開例で使われている画像を入力すればすぐにオリジナルを見つけられたようだ。

Googleのイメージ検索は、画像全体が近い画像を探すのに適したサービスであるが、画像内に写った建物の名前や、名前がすぐに出てこない有名人の名前を知ることにも使える。また、同社のサービスであるGoogle Photosサービスでは、画像に付随する情報を使わずに、画像に何が写っているのかを推定し、画像にタグを付与している。これは、最近注目されているDeep Learningを使った画像認識技術により、多数の画像で学習した結果である識別器がタグ付に使われていると考えられる。猫を認識できる識別器が生成されたというニュースがよく知られている。一方では、間違ってタグ付してしまうケースもあり、機械的にやっているからといっても、検索結果に影響を受ける人が納得しない場合にも対応できる仕組みも必要だ。

最新の画像検索技術

毎年実施されているILSVRC(ImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge)という画像認識のコンテストでは、写真に写っている物体を200種類の中から特定する課題や、さらには複数の物体の位置関係を把握する(例えば、テーブルの上にりんごがある)課題が与えられている。MITでは、物体を識別するだけではなく、物体のおかれている状況を認識する研究も行われている。非常に競争の激しいコンテストであり、本番のデータベースにアクセスできる回数が限定されている。コンテストに参加している中国のBaiduが不正なアクセスを繰り返したことで出入り禁止になる事態も発生している。コンテストで2013年に優勝したClarifai社では、コンテスト向けに開発した技術を改良して、画像検索技術を利用してタグ付する仕組みを提供している。

動画も検索対象に

大量にある動画の中から必要な部分を抽出するニーズもあるだろう。編集済み映像に使われている元の映像を探す技術や動画の各フレームに対して自動的に付与されたタグを利用して、キーワードに応じた見たいシーンから再生する技術も開発されている。撮った日付や場所などいわゆるメタデータを付与する以外では、撮りためた映像を整理するのは簡単ではないことを考えると非常に有用な技術であろう。

画像検索技術を創造力につなげられるか

検索技術が高度化するにつれて、必要とする画像や映像が手に入りやすくなり、それらを利用したくなるのも無理もない。もちろん、個人利用の範囲で使う分には問題ないものの、ビジネスで使うには注意が必要だ。画像の場合には、著作権、意匠権、商標権といった権利があり、文章のように許諾なしの引用という形では簡単には活用できない。しかしながら、第三者が悪意を持って他人のデザインやロゴ等を中国を中心に国をまたいて意匠や商標登録する、いわゆる冒認行為も見受けられる。当社ではこうした行為を見つける技術を開発した実績もある。その一方で、単純なデザインほど他のものとの区別が難しいし、過去に目にした画像等から無意識に影響を受け、いわゆるインスパイアされて作られるケースもあるだろう。完全なオリジナル性を主張するのであれば、自身で作った画像で検索してみるべきである。実際、商標登録や意匠登録する際には権利を侵害していないことをそれなりに調査しているのと同様に、インターネットサービスを使って調べることをおすすめしたい。また、画像検索技術を活用してチェックできるサービスを提供できる事業者がこれから必要とされるだろう。