注目を集めるテレプレゼンス・ロボット

1月に政府からロボット新戦略が発表され、多くの企業が新しいロボットを発表するなど、ロボット界隈が大いににぎわっている。Pepperの続々発表される新構想、HISが始めたロボットが接客する「変なホテル」など、話題には事欠かない状態が続いているが、その中でもテレプレゼンス・ロボットが地味に注目を集めている。

代理で美術鑑賞から打合せ参加まで

テレプレゼンス・ロボットとは、行きたくても行けないときやちょっとしたことで行かないで済ませたいとき、代理になって動いてくれるロボットである。見かけはいたってシンプルで、移動する台車の上に棒が立っていて、棒の先の人でいえば胸ぐらいの高さのところにタブレットがついているだけのロボットである。

例えば、世界的に有名な海外の美術館に行ってみたい。しかしお金や仕事の関係で行けない。そういったとき、美術館に配備してあるテレプレゼンス・ロボットが活躍する。自宅からテレプレゼンス・ロボットを遠隔操作し美術館内を回ることで、スクリーン越しではあるが、自分の好きな角度でじっくり絵画を鑑賞することができる。

職場でもテレプレゼンス・ロボットは活躍する。在宅で仕事をする際、やはりFace to Faceで打合せに出たいという場面はあるだろう。そういったときに、代理でテレプレゼンス・ロボットがオフィス内を動き回り打合せに出席してくれる。オフィスだけでなく病院でも実際に活用されている例もある。医者は夜中でも急に呼び出されることがあるというが、その多くは行かないでも済んだようなちょっとした処置で終わることが多いという。テレプレゼンス・ロボットを導入したUCLAメディカルセンターでは、遠隔でテレプレゼンス・ロボット越しに一次確認することで、負担がぐっと減っているという。

テレプレゼンス・ロボットはシンプルなロボットであるがゆえに価格も安く、20~30万程度で販売されている。しかしながら、応用領域は広く、代理の旅行やバーチャルショッピング、学校への代理登校、高齢化が進む日本では高齢単身世帯の見守りや在宅介護などでの活用も考えられ、将来はあちこちでテレプレゼンス・ロボットが動いている可能性もある。

遠隔に五感を伝える

テレプレゼンス・ロボットは技術開発による進化の余地も大きい。

現在、代理で動くロボットは遠隔の操作者に映像と音声を送っている。言い換えると、五感のうち、視覚と聴覚を代理しているといえる。これをよりリアルに代理ロボットの感覚を伝えることで、その応用領域はさらに拡がる。①より臨場感がある形で視覚・聴覚の情報を伝える、②触覚や味覚、嗅覚の情報を伝える、といった方向性が考えられ、それぞれ技術開発も進んでいる。

より臨場感がある形で視覚の情報を伝えるという点では、Oculus RiftやHoloLensなど、臨場感のあるヘッドマウントディスプレイが続々と発表されている。立体音響はかねてより実現しており、これらを組み合わせれば、視覚・聴覚の情報をより臨場感ある形で伝えることが可能だ。

触覚や味覚、嗅覚についても、センシングする技術、センシングした情報を定量化する技術、そして定量化した情報を再現する技術の開発が進んでいる。例えば、味覚では、味をセンシングし定量化する味覚センサが実用化の域に達し、食品や外食業界で使われ始めている。シンガポール国立大学など味覚を仮想的に再現するシステムも開発が進められており、いずれはロボットが代理で遠く海外の味を伝えてくれるという日も遠くないだろう。

代理で動くロボットが人間の能力を超えた動きをするという進化の方向性もある。例えば、ドローンタイプのテレプレゼンス・ロボットであれば、自分の代理で空を飛び、その体験を伝えることが可能だ。実際にスタートアップ企業のSkyDrone社ではドローンとドローン専用カメラ、さらにOculus Riftを組みあわせて疑似飛行体験を実現させている。鳥型のロボットで鳥を疑似体験し、魚型のロボットで魚を疑似体験する。そういった世界もそう遠くない将来に実現可能だ。

ロボット普及の突破口に

必要な機能のみに特化し、安価な価格設定により普及しつつあるテレプレゼンス・ロボットは、普及に苦戦してきたロボットの一つの成功例であるといえる。こういったロボットが普及することで、ロボットが共存する社会の課題を実感し、ルールを作っていくきっかけとなったり、生活の中にロボットがいても違和感のない社会になり他のロボットも活用が拡がる。そういった良いサイクルのきっかけとなることを期待したい。