仮想サーバからアプリケーションまで、数え切れないほどのクラウドサービスが提供されている。 いずれも便利なサービスだが、今回は開発環境に関するサービスに着目し、イノベーションとの関係を見ていきたい。
ブラウザが開発環境に早変わり
Monaca CloudはHTML5によるモバイルアプリの開発環境を提供するサービスだ。 Webブラウザがあればすぐにアプリの開発を始めることができる。 また、スマホ側に専用デバッガーアプリをインストールすることにより、 ソースコードを保存すると即座に変更をアプリに反映させることができる。
WebydoやWebflowはWebデザイナー向けのWebサイト構築サービスだ。 WebオーサリングツールのようなUIを備えており、ブラウザ上でWebサイトのデザインが作成可能だ。 従来からテンプレートをベースにサイトをデザインするようなサービスはあったが、 これらのサービスでは本格的なオーサリング機能を用意している。
Linux環境を提供するサービスもある。Google Compute EngineやAmazon Web ServiceやKodingは仮想Linuxサーバを提供するサービスだが、 シェルやエディタといった機能をブラウザから利用できるようにしている。 GUIアプリケーションは使えないものの、仮想Linux端末にログインして様々な操作することができる。 管理者権限(sudoの実行権限)も付与されるサービスであれば、ほとんどのソフトウェアをインストールしたり設定を変更することが可能だ。
流行のビッグデータ関連では、Microsoft Azure Machine Learningという機械学習機能を提供するサービスがある。 学習ロジックの構築はGUIでできる上、機械学習や統計分野で主流の言語であるRのスクリプトにも対応しているため、最新の統計手法も活用できる。 ロジックが固まれば、それを簡単な操作でWebサービスとして公開できる。 従来はR等で作成したロジックをJava等のWebアプリ用の言語で記述しなおさなくてはならなかったが、 その必要がなくなる。 なお、IBMも人工知能Watsonの機能を持たせたBluemixを提供しており、Amazonも最近類似のサービスを始めた。
PaaS型開発環境の特徴
これらのサービスは、いずれもPaaS (Platform as a Service) と呼ばれる部類のサービスだ。 PaaSによる開発には以下のようなメリットがある。
- 早い・簡単1:環境構築や運用・保守が不要であり、自身の得意分野や「やりたいこと」に注力できる。
- 早い・簡単2:様々なツールがサービスとして提供されており、これらの組み合わせることで開発スピードを上げることができる。また、インターネット上での公開を前提としてサービスが作られているため、開発したアプリケーションをすぐに公開できる。
- 安い:利用量や期間に応じた課金であり、かつ、低額である。フリーミアムモデルを採用するサービスも多く、手軽に開発を始められる。
- 場所を問わない:ブラウザさえあればどこでも作業できる
スタートアップ企業や教育・研究機関でとくに有用
これらのメリットを享受しやすいユーザとしては、スタートアップ企業や教育・研究機関が挙げられる。
スタートアップ企業では、優れたアイディアを迅速に具現化し、プロトタイプであってもモノを見せることが重要だ。PaaS型開発環境は上記のように環境構築が不要で費用も安く、アイディアの実現に注力できるためプロトタイプの開発に最適である。
また、多くの大学・専門学校等では学内にコンピューター実習環境を構築している。 メールやオフィスソフトの利用や、基礎的なプログラミング教育には十分な環境だが、 OSの動作を理解するような実習や先端的な技術に関する演習は、 管理者権限が必要となるため行えないことがある。 また、研究室では自前でコンピュータを調達することもできるが、自分で環境構築を しないとならないため、環境構築で四苦八苦、ということも多い。
PaaS型開発環境を活用すれば上記のような課題を解決できる上、自宅でも作業できるため、学生にとっても便利だ。 (実際、いくつかの大学・専門学校ではMonacaを採用している。筆者も今年、某大学での講義で利用しようと思っている。)
イノベーションを惹き起こす源となるか?
欠点としては、社内外の他システムとの連携がしにくいといった点や案件ごとの細かい要件には応えにくいという点がある。また、セキュリティや情報秘匿の観点から許可されないこともあろう。 一方で、完璧なサービスでなくとも成長していくサービスが認められる時勢である。 ユーザ企業と開発ベンダーの双方の理解が必要だが、 最初は機能は限られてもPaaSで安価・迅速に開発し、消費者の反応を見ながら本格的に作りこんでいくという方法もあるだろう。
個人的には、Monacaのような日本発のサービスがもっと出てきてほしいと感じている。 PaaSの運営者には必然的に様々なアイディアが集まる。言ってみればアイディアの宝庫だ。 一定の許可を得た上でサービス利用者間のマッチングをしたり、外部へ共同でアピールしたりすることによってさらなるアイディアが創発され、新たなビジネスにつながる可能性は大いにあるだろう。 ビッグデータの世界では「データを持つものが勝者になる」といわれている。 だが、ビッグデータも活用しなければ価値を生まない。 データが一部企業に集中しつつある中、対抗するためにはアイディアで勝負する、というのもひとつの方策だ。