IoTから見た次世代移動通信(5G)への期待

毎年3月初旬にスペインのバルセロナで開催されるモバイル通信に関連する展示会Mobile World Congress(MWC)が先日開催された。モバイル通信関連では最も大きな展示会である。展示会会場では、メーカー各社から発表されたばかりの最新型端末や新しい無線通信技術に関する展示が行われている。今回展示された内容から、IoTと5G(第5世代移動体通信)に注目して、各メディアの報道を参考にしながら今後の方向性を考える。

ブームで終わらないIoT

IoT(Intenet of things: モノのインターネット)という用語が、一般メディアにおいてもよく取り上げられている。しかしながら、一般の人にとっては「モノのインターネット」と言っても理解しにくいだろう。PCやタブレットなどユーザが持つ機器をつなぐのがインターネットであり、ユーザが直接使うものではないが、通信する各種デバイスをつなげられるインターネットをIoTと定義できるだろう。従来から示されているコンセプトだけではなく、具体的な活用事例やプラットフォームを提供する事業者が出てきた。特に、米国GE社が提供するIndustrial Internetやドイツが国を挙げて推進するIndustrie 4.0などが注目されている。IoTは製造業への応用が考えられている。製品にセンサを追加して管理することで高付加価値サービスを実現したり、設計から生産までセンシングしたデータや設計データを活用したサプライチェーンの効率や工場間で接続する際の技術の標準化などにより、様々な工程の効率化を図る「スマートファクトリー」を実現するものとして期待されている。

IoTといえば、多数のセンサを置き常時計測、センシングデータを収集、処理すれば、何でも効率化できると思われていることも多い。しかしながら、センサで取得するデータの意味や計測対象との関連性を考えないとデータが単に大量に保存されている状態になりがちだ。もちろん、後で解析するためにデータを取っておくという説明はできるものの、必ずしも活用できている事例が多くないのが現状だ。また、成果が出ているとされる例においても、データの活用により燃料コストが下げられるのは数%程度に留まっている。製造業では、既にデータを見ながらベテラン職員の暗黙知による最適化がある程度なされているためと考えられる。

ところで、IoTでは、非常に多数のデバイスが高密度に設置されるため、高密度なM2M通信環境で正しく通信できることが求められる。1台当たりのトラフィックはそれほど多くないものの、携帯電話端末を中心とする通信環境と比べて、接続される台数が10倍、100倍となる可能性がある。そうした通信環境に適応した通信方式も検討されている。

5Gの行方

M2M通信のニーズが明らかになりつつある中で、商用サービスとしては、3.9GであるLTEが普及期に差しかかる中で、本物の4GであるLTE-Advancedの導入が始まった。 一方では、研究開発では、さらに次世代である第5世代(5G)に関する検討が各国で始まっている。国内ではNTTドコモを中心に5Gに関連する実証実験を通じた検討や、総務省が支援する第5世代モバイル推進フォーラムが立ち上がっている。 同様の動きが各国にあり、例えば、欧州ではMETISや5G-PPP、韓国は5G Forum、中国でもIMT-2020という組織において検討が始まっている。いずれの研究開発組織・プログラムにおいても、ビジョン、コンセプト、ユースケース、技術要件を作っている段階である。

5Gに関する仕様として、国際的に規定されたものはないが、各国での議論に基づくと、通信速度が1Gbps以上、遅延1ms以下、接続機器数が100倍等という技術的な要件が見えてくる。そのような要件を実現するためには、100MHz以上の帯域が必要であり、新たな国際的に共通する周波数割当を待っている状況である。必然的に広帯域が取れる高周波を使うことになり、当面は3GHz以上6GHz以下での利用が想定されている。そのような周波数の電波は直進性が高いため、現在の携帯電話のように面でカバーするのは難しい。そのため、現在の無線LANのホットスポットのように、スモールセルと呼ばれる小型の基地局を設置することが想定されている。

ユーザへのメリットは

現在検討されているユースケースには、IoTのように多数のデバイスを接続するケースや、ターミナル駅やイベント会場のように多数の端末が高密度で存在する空間など、現状では通信しにくい環境を想定したものが多い。単純に1Gbpsという最高速度だけではなく、安定的に接続できる環境も提供されることになる。特に、日本では東京オリンピックに合わせて2020年の商用サービス開始を目標にしており、オリンピック会場でも高画質な映像配信等が計画されている。

通信速度の最高値だけが早くなっても、月間数GBを上限とする料金体系では、本来の性能を生かせない。新たな設備投資があるため、料金を安くすることが難しいのは理解できる。しかしながら、現在の使い方では通信速度の高速化は動画を見る時以外にはなかなか認識しにくいのも事実である。10代、20代のユーザがスマートフォンで動画を見る機会が圧倒的に多いことを考えると、単純な通信量の制限は緩和して利用機会を増やす努力をすべきだろう。