ITコスト適正化こそITガバナンス強化の要諦

ITガバナンスとは、IT部門の業務デザインそのもの

IT業界の用語には、CRM、BPM、クラウド、IOT等々、言葉の捉え方が人によって違うことが多いものが少なくない。抽象的な言葉が多いので、ITにさほど詳しくない経営層に対してIT投資の内容や効果などを理解してもらうには、案件の内容を「経営の言葉」で語る必要があり、正しく理解してもらうように具体的に説明することが重要である。
 このような行為は説明責任(アカウンタビリティ)とも言われている。

経営層に対してIT投資の説明責任を果たすために行うべきこと

その中でも「ITガバナンス」は、IT戦略、全体最適などの言葉で語られることが多く、抽象的で分かりづらいと感じられる方も少なくないのではないだろうか。
 ITガバナンスの定義は、以下のようなものがある。

◇経済産業省の定義
「企業が競争優位の構築を目的に、IT戦略の策定・実行をコントロールし、あるべき方向へ導く組織能力」
◇情報システムコントロール協会の定義
「ITガバナンスは取締役会及び経営陣の責任である。それは企業ガバナンスの不可欠な部分で、リーダシップ及び組織的な構造、及び組織のITがその組織の戦略及び目的を保持し拡張することを保証するプロセスからなる」

具体的にはどういうことか。
 ITに関する戦略を立案し、それを基に企画・開発・運用といったITプロセスを実行、その成果としてのシステムが出来上がる。そのシステムを活用して業務プロセスが遂行され、結果、期待していた効果が実現される。それらを円滑かつ適正に実施していくためには、人・組織における役割分担が明確になっており、ルール・基準が整備されている必要がある。
 こうした活動は、一過性のものではなく、PDCAサイクルを回し、実施結果のフィードバックを基に常に改善されていくものでなければならない。
 こうした一連の流れと必要な要素をどのように実現していくかをデザインし、維持していく活動がITガバナンスということだ。システムはITガバナンスにおける一要素に過ぎない。

基準・ルールを「仕組み」として組み込む意思決定がポイント

ITガバナンスに関する課題把握・対策を検討する際には、グローバルスタンダードであるCOBIT成熟度モデル※1を参照することが多い。

※1  COBIT:米ISACA(情報システムコントロール協会)が提唱しているITガバナンス確立のためのベストプラクティス。日本の経済産業省が2004年10月に公表した「システム管理基準」も、これを参考に作られている。

ここで分類された6つの領域、34のITプロセスについて、どこまで出来ていて、十分でない場合はどこに課題があるかを整理していくわけであるが、課題の深堀り(なぜなぜ分析)をしていくと、以下の6つに真因は収斂していくケースが殆どである。

1.方針の問題
⇒方針がはっきりしていない。
   「方針を明確にする」ことになるが、経営戦略との整合性、IT投資ポートフォリオや開発方針などを5W1Hを明確にして臨む必要がある。
2.体制の問題
⇒役割分担が曖昧である。
   経営・ユーザ部門・IT部門(・ベンダ)との役割分担を明確にすることを軸に、業務の集中と分散(業務センターや購買の集中化など)を整理する。
3.基準・ルールの問題
⇒判断基準が不明確である。
   投資基準、見積基準、プロジェクトのEntry・Exit基準、事後評価基準などを整理し、業務の標準化を図る。
4.手順の問題
⇒手順がバラバラである。
   文字通り手順を統一し、無駄や属人性を排除する。
5.能力の問題
⇒能力不足である。
   人材育成施策を検討することとなるが、ITガバナンス上特に意識すべきは、提案型営業、多能工化、技術継承、管理者育成といったあたりになる。
6.コミュニケーションの問題
⇒コミュニケーションが不明確である。
   情報共有等のコミュニケーション力強化の施策を検討する。

私の経験では、3の基準・ルールを「仕組み」としてIT部門の業務に組み込むことがITガバナンス強化の要諦であると考えている。この仕組みはワークフローやナレッジDBなどのシステムで実現することになるが、現状は殆ど手作業かExcelであり、個人の知見に頼っている部分が大きい。
 3.を解決することで、他の問題も解決されてくるが、実務上の課題は3の仕組みを構築すること自体に経営資源を割く意思決定が出来ない(うまく説明出来ない)企業が多いことである。

そこで、「ITコストの適正化と絡めてITガバナンス強化を図る」ということを提案したい。

ITコスト適正化の施策を実施することで、短期的なコスト削減効果を創出できる。しかし、そもそもITガバナンス上に問題があると、IT資産の管理が十分出来ない状況になり、それが余剰資産と管理業務を膨らませることになり、ITコストの増大につながっていく。ITガバナンスの強化は中長期的なITコスト削減・投資抑制に寄与する重要施策の1つであるということを念頭に置いて推進すれば、経営層としても定量的な判断がしやすく、意思決定のハードルは低くなる。その結果、冒頭で述べた説明責任(アカウンタビリティ)も果たせることになる。