プログラミング教育は「稼げない」イメージと戦え

プログラミング教育が2013年頃より注目されており、一部ではプログラミング教育の必修化を望む声も上がっている。プログラミング教育は公教育で必修授業となりうるのだろうか。公教育で扱われるようになるには、十分に教育関係者の中で議論される必要がある。その議論の俎上へ上がるには何が必要かを、英語教育を参考に考えた。

プログラミング教育が盛り上がっているが、公教育までは届いていない

2013年前後から、小学生や中学生向けの「プログラミング教育」が注目され始めている。例えば2012年度から中学の技術教科にて「プログラムによる計測・制御」が必修となった。また、「新学習指導要領 」や、IT企業やNPOを中心とした小学生等低年齢層を対象としたプログラミング教育の活動が増えてきている。

なにより、日本再興戦略日本最先端IT国家創造宣言で初等・中等教育からのプログラミング教育に言及されたことが、「プログラミング教育」の認知度を上げたと言える。これらの国の方針では、プログラミング教育はいずれも高度IT人材育成を目的としている。プログラミング教育を通して高度IT人材が育成され、国際競争力に繋げる、といった文脈である。

しかし、プログラミング教育の目的として高度IT人材育成が主眼だとすると、公教育で職能的な内容をそもそも教えるべきではないといった反発が強い。プログラミング教育は公教育で取り上げられるのだろうか。先に初等教育へ新教科として導入された英語教育を参考に考えたい。

英語教育はグローバル人材育成を目的として小学校で必修化された

英語教育は現行の学習指導要領で、小学校高学年から必修となった(「小学校外国語活動サイト」)。学習指導要領 では「外国語を通じて,言語や文化について体験的に理解を深め,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませながら,コミュニケーション能力の素地を養う。」と外国語(英語)コミュニケーション能力向上を目的としている。では、いつ実際に英語を使ってコミュニケーションをとる必要性があるのかというと、主に大学生以上であり、とくに社会人になってからである。そのことから、英語の教育効果は職能的色合いが強いと言えるのだが、それにも関わらず、小学校教育へ新しく導入されたのである。プログラミング教育が議論されるときには、ビジネス目的が強すぎると言われるにも関わらず、英語教育が不要だといった議論はあまり聞かれない。(ここでは英語教育を小学校の必修授業にすべきでない、ということを伝えたいわけでは断じてない。)

10年前の調査の時点で既に、親は小学校で英語教育を必修化することを望んでいた(「小学校の英語教育に関する意識調査 結果の概要」) 。つまり、英語が小学校にて必修化されたことは、職能的なスキルの意味合いが強い教科でも、世間一般から必要性を認められた場合、公教育へ取込まれることを示している。

プログラミング教育が世間の賛同を得られない理由はIT業界のイメージにあるのではないか

ではなぜ、英語の必要性は世間一般で認められたのだろうか。英語が使える人材は、一般にグローバル人材と捉えられ、年収が高いイメージを持たれている。実際に高いとする調査結果もある(「英語力のある人の給料は、平均の2倍以上!? – 50代後半では約800万の差が」) 。英語力によって年収が高くなるというイメージだけでも、子供が小さいうちから英語に触れる機会を与えてほしい、と保護者が感じることに納得できるだろう。(もちろん英語には年収以外にもメリットがある。)

では、プログラミング教育は世間の賛同を得られるのであろうか。プログラミングというと、SEやプログラマー等のIT技術者に必要なマニアックな技術、といったイメージがあるだろう。そして、IT業界は厳しく、長い労働環境にも関わらず高くない賃金といったイメージを持たれている(「IT企業の9割が人材不足、3K職場のイメージ定着――IPA調べ」、「IT技術者が足りない?需要増大、大型開発案件山積…新3Kの業界イメージで志望者減も」)。IT業界に対するマイナスイメージが広がっているために、親がIT業界へ魅力を感じていないならば、IT業界へ直結しそうなプログラミングの勉強を小さな頃から全員が受ける必要はない、と考えることは当然ではないだろうか。つまり、プログラミング教育の普及を考えるのであれば、あまり職能的なメリット(を想起させる高度IT人材育成等)だけを押していては、世間の理解は得られないのではないか。

プログラミング教育が育てるのはIT技術者だけではない

実は、プログラミング教育の目的は高度IT人材育成だけではない。教育効果としては論理的思考力や創造意欲・チャレンジ精神の向上等を多方面のプログラミング教育関係者が挙げており、イノベーション人材育成に繋がると言われている(「プログラミング教育は子どもの創造性を高める」、「プログラミング教育の必要性と効果、保護者はどう感じたか―― CA Tech Kids講演会リポート」、「新「米百俵の教え」を 」「小学校でプログラミング アイデアを形にする力をつける 」)。

もしもプログラミング教育を公教育内で扱う場合は、まずは世間の理解を得るために、前述のような幅広い教育効果があるということをアピールし、IT技術者にだけ必要な教育だというイメージを払しょくする必要があるのではないか。もちろん、イメージを変えただけでは必修化には繋がらないが、教育関係者の間で話題に上り、プログラミング教育の効果や目的が整理・精査され、真剣な議論の対象となるには、まず、イメージを変えなければならないだろう。