BPMを使ってもやはり業務プロセス改善やそれに伴ったITシステム刷新は難しい。これはプロジェクトに携わった方なら頷いてくれるところであろう。夏目漱石の草枕の表現を拝借すると、「智に立てば角が立ち、情に棹差せば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくプロジェクトが進めにくい。」となりそうだ。
しかし一方で、BPM等の業務モデリング技術は人と人、人とシステムの「つながり」を如何にうまく行うかというところに注力すれば良いようになっており、それをうまくやれるような工夫がやはり凝らされていると思う。今回は、改めて「つながり」という観点から、業務改革におけるBPMの適用ポイントやメリットを見直したい。
改めてBPMとは
BPMは、日本オラクルによると「プロセス指向、モデル駆動、継続的改善運動の3つの特徴を持つ業務改善手法」と定義されている。BPMの定義は、遂行主体のひとの視点の違いによって様々に変わりうるが、これは多様な局面で用いることのできる汎用的なものといえる。
BPMと他の業務改善手法との違いは、ひとやシステムが複雑につながって行う業務を対象として、かつ運用開始後もその業務を継続的に改善するための実践的な仕組みが有ることだ。例えば類似手法としてよく挙げられるワークフロー管理は、人間主体の定型的業務のみを対象としたプロセスのモデル化・監視に留まるが、BPMは人間や情報システム群が連携する非定型業務もモデル化・監視を行い、さらに業務分析・再構築できる仕組みであるため、大局的かつ継続的な改善サイクルを実現できる。
とはいいつつも、現実のBPMツールの導入事例においては、上のような仕組みを必ずしも達成できている訳ではない。全社規模で適用したかったが、証跡記録等が必要な定型業務における適用に留まり、本来目的としていた非定型業務は未着手という事例は多い。
BPMによる業務改善のポイント
では、どのようなことに注意すれば成功に近づくのだろう。ここでは、最初にあげた「つながり」に着目してBPMによる業務改善のポイントを整理したい。BPMの考え方やツールを用いた業務改善は、具体的には「業務の可視化」と「業務改善の定着化」というステップを踏むが、絶対に外しては行けないポイントは以下の2つだ。
- ポイント1:経営層と現場担当者のつながり ~推進体制の確立~
- まず、一連の改善活動を通して、経営層と現場をつなぎ双方を巻き込んだ体制で推進していくことが重要だ。総論としての業務改善だけで話が進んでいても、個別業務に話が及んだ途端に現場からの反発が起こってしまう。階層縦断的・組織横断的に共通理解できるBPMのモデルを活用し、入念に時間をかけて互いに隅々まで合意形成を徹底することが、成功に結びつく。
- BPMはよく、サイズダウンして小さくスタートすることが推奨されるが、その小ささは巻き込むべき人や業務を不要に外してしまうようなサイズダウンであってはならない。そうするならばBPM以外の手法はどうかというところから再議論した方がいい。
- ポイント2:人と業務のつながり ~オーナーシップ確保~
- また、業務プロセスのオーナーシップを確保することが必要だ。担当業務の改善は、直接の担当者に責任感で紐付いていないと、継続的な活動にはつながらない。BPMツールには、業務プロセスを再設計しその効果を確認できる機能が整備されている。
- このような特徴を活かして、現場全員が課題を実感でき、気づいたことを自らがすぐ業務改善に反映できる環境を用意しよう。そして、改善度合いを定量化して関係者間で共有・評価できるようにすることが必要だ。そうすることで、自発的な業務改善のサイクルが促される。
BPMによる「つながり」の重要性が増している
近年絶え間なく変化するビジネスやテクノロジーの環境下では、変化を柔軟に受け容れながら自律的に追随する業務改善の仕組みが必要だ。BPMが導入された業務の強みとして、プロセスやシステムが環境と相互作用しながら動的な秩序を保つための以下の様なつながりが挙げられる。
- 経営と現場業務のつながり BPMツールは、ERPで記録するログ情報などから、経営目標を根拠にブレークダウンした重要業績指標(KPI)を比較的簡単に測定出来るようになっている。目標値設定や実測値の計測評価を通して、現場担当者による個別の業務改善の積み重ねが満遍なく経営目標への改善につながるため、経営戦略と業務プロセスの間に常に整合性を保つことが出来る。
- 複数の業務システム間のつながり 近年、ERPの多くがサービス指向アーキテクチャに対応し、また旧来システムをWebサービス化する技術も整備されている。BPMツールはこのような技術と親和性が高く、複数システムの業務機能をつなぎあわせて新規業務プロセスを素早く設計・実装することができる。
- 開発者とシステムのつながり BPMは、プロセスの要件を視覚的にモデル化し、常に最新の要件を反映するよう動的に管理している。通常、システム保守は紙や電子媒体上に取り纏められた要件を根拠として進められているが、このような情報は一過性で静的なもので開発当時と現在のつながりが保てていないことが多い。BPMによるモデルベース開発と業務プロセス自体の版管理は,保守上のトレサビリティを確保し、開発者の作業効率を大幅に向上させる。
モデルを使って何をつなげるかが成功の鍵
近年、レガシーシステム刷新や、組織再編時の業務横断連携、きめ細かい顧客セグメントへの業務プロセス対応といったテーマを背景に、業務やシステムが環境や要件の変化にいかに素早く対応していくかが強く問われている。
業務モデリングはそれ自体が目的ではない。一見非人間的な技術と捉えられがちだが、人間が人間くさいところにより注力できる強力で愉快な道具である。道具を揃えただけで解決ではなく、そこからが本番だ。道具をうまく使って、人と人、人とシステムを橋渡すつながりを実現することが必要である。