少し昔の映画の話しだが、マイノリティリポートでは特殊なグローブを手に装着し、手振りで映像データを編集しているシーンが印象的である。近未来の端末操作イメージとして多くの人に共有されているシーンだろう。考えていただきたいのはトム・クルーズのようなジェスチャー入力を誰がいつ使いたいのか、ということである。例えば運転中に目的地付近のグルメ情報を検索したいときや、料理中にクックパッドを表示しているiPadをスクロールしたいときに手で端末を操作することが難しく、煩わしさを感じることがあるだろう。生活の中で何か必要な情報を得たいのにスマホ等端末の操作が難しいシーンは、情報へのアクセシビリティが低かった、ということになる。動作や身体機能に制限がある場合、とくに切実になる。
入力方法のカスタマイズ
PCやタブレット端末の購入後、利用者はキーボードを交換したり、音声入力アプリを追加でインストールする等多かれ少なかれ自分が入力しやすいようにカスタマイズしている。
特に高齢者や視覚・聴覚障がい者、肢体不自由者といった動作や身体機能に制限がある人にとってはマウスとキーボードはベストではない。そのため既に個々人の特性に併せて音声入力、視線入力やジェスチャー入力を利用していることがある。以前は専用機や手作りの機器を利用するしか方法が無かった。しかし最近はPCやタブレット端末等の自由度が高くなったこと、製品化されているセンサーデバイスの増加等により、汎用品をうまく組み合わせ、カスタマイズして利用する人が増えている。
例えばiPadは標準搭載されているアクセシビリティ機能、豊富なアプリによってカスタマイズが可能な点、汎用品ならではの洗練されたデザイン等が理由で利用者が増加している。またゲーム機Xbox用のジェスチャー・音声認識で操作するデバイスであるKinectを用いたスイッチデバイスも販売されている。特定の動きを「スイッチ」として登録し、その動きでON/OFFを入力する。
多様な入力方法
他にも様々な入力方法は既に市場へ投入されていたり、研究成果の公表がなされ始めている。
ジェスチャー入力ではコンシューマ向け製品が次々と発表されている。Ringは指輪型のデバイスをつけ、指で空中に文字を書く等の動きを検知し、入力信号へ変換が可能である。つまり指で空中に文字を書いて入力することや、ジェスチャーだけで端末の画面操作が可能となる。またLeap Motion Controllerは指二本分程度の箱型のデバイスがセンサーである。その上で手を動かすと手の動きを検知し、簡単なジェスチャー入力が可能となっている。他にも様々な製品が登場している(FingerLink、ハンドジェスチャー認識技術、Flutter等)。まだ素早い手振りや検知できる動きの精度に課題はあるものの、キーボードが使えない場合の代替手段となりうるだろう。 また、サイバーダイン社のロボットスーツHALの根幹技術である筋電流センサの利用にも注目が集まっている。物理的な身体動作が伴わずとも、脳から筋肉へ流れる電流を検知し、ON/OFFが可能となっている。更には、長年の研究成果として、少しずつ「脳波」を検知し利用していることを謳った製品も登場している。
このように身体の動きに制約されない、マイノリティリポートやその先の入力方法の開発、製品化が進んでいるのである。
最新の入力方法はすぐに活用できるのか?
様々な入力方法の登場で情報のバリアフリーは進展するのではと考えられる。ところが、タブレット端末とKinectを組み込んだ製品の普及が進む程度であり、多様な入力方法が世の中に浸透しているとは言いにくい。
おそらく、多くの人はジェスチャー入力や脳波入力を耳にし、キーボード・マウスの利用に問題がなくても、使ってみたいとは思っているだろう。けれども大部分がまだ購入し、利用に踏み切れていないはずである。もちろん価格の問題はあるだろうが、初期設定をどうするのか?何ができて何ができないのか?どうすれば自分の目的にあった使い方ができるのか?そういった点も障壁となっているのではないか。
キーボード・マウスの利用に不便を感じている人は切実な状況にあるが、前述と同じ障壁がある。そもそも端末への入力以外の生活シーンにもバリアがあるため、入力デバイスばかりに関わっていられない。使えると便利だと思っても、利用に踏み切れない状況がある。
特定のシーンでの普及が鍵となる
このように技術や製品の展開だけでは十分とは言えない。一般的にハイテク製品は、新製品への関心が強い一部の層(いわゆるイノベータ)への普及から、流行に敏感で製品のメリットを理解してから導入する層(アーリーアダプタ)へ広がる。そこでの活用事例が多数生まれ、導入メリットが大きいと多くの人が感じられたときに爆発的に普及が進むとされている。まずは「入力デバイス」という広い分野ではなく特定の活用シーン、製品との組み合わせでジェスチャー入力等の新しい入力方法がアーリーアダプタまで普及し、活用事例が増加することがアドホックとなるだろう。冒頭でも挙げたが、例えば運転中は行動の制約が大きい。また、TVのリモコンを探すことに煩わされることはないだろうか。離れて視聴しているため、操作をジェスチャー入力へ切り替えることへのニーズは高いだろう。運転中やTV鑑賞中の入力デバイスとしてジェスチャー入力等が採用されることがきっかけとなり、他の生活シーンへ広がり、情報バリアフリーを推し進めるのではないだろうか。