今年に入り、クレジットカードや電子マネーに代表される非現金決済市場に、IT企業を中心とした異業種が続々と参入している。顧客の囲い込みや新たな収益源を見込んでの参入だが、競争も激しい。
費用を収益源に転換
直近で最もインパクトのある参入はKDDIのau WALLETであろう。従来のポイントプログラムを、一般店舗でも利用可能な電子マネー(プリペイドカード)に転換した。背景には、スマートフォンの普及で従来型携帯電話の有料コンテンツサービスによる収入が激減したことがある。代替の収益源のひとつとして目を着けたのが決済だ。これまでは口座振替手数料やカード手数料を支払う一方であったが、電子マネー化することによって、逆に手数料を稼ぐことが可能となった。また、系列のじぶん銀行の支援にもなる。
新規参入の場合、サービスを利用できる店舗網の確保が大きな課題となるが、au WALLETの場合はMasterCard加盟店で利用できる仕組みにしたことによってこの問題を回避している。積極的な広告と魅力的なキャンペーンによって勢力を拡大しており、参入から2か月弱で300万枚の申し込みがあるなど、スタートは順調なようだ。
一方、EC業界とポイント事業者は連携・統合を推進し、決済市場へ参入し始めている。ヤフーポイントとTポイント、リクルートポイントとPonta(2015年春予定)はそれぞれ統合し、ポイントを実店舗でも使えるようにした(する)。楽天もポイントを実店舗でも使えるようにする予定である(2014年秋予定)。各社の目的は、ECと実店舗の両面での顧客の囲い込みだが、もしau WALLETのようにポイントを購入できるようにすれば、決済手段として一大勢力となりうる。 ヤフーは中堅カード会社KCカードの一部事業の買収を発表しており、参入の布石の可能性もある。
参入は他業種からも
決済市場には他の業界も注目している。
物流業では、ヤマト運輸が「クロネコメンバー割」という独自の電子マネーを開始した。配送料の支払い用だが、代引きの決済に使えるように変更することも容易であろう。 また、日本郵便は、三井住友信託銀行と提携し、クレジットカード決済に参入することを発表した。 物流業は各地に拠点を持ち、発送元(企業)と配送先(家庭)の両方にネットワークを有することが強みである。
また、ベンチャー企業は決済手数料の低価格化を売りに勢力の拡大を狙っている。 以前紹介したような、スマートフォンを決済端末として使うことで端末代や手数料を低く抑えるソリューション(スクエア、コイニー等)だけでなく、Spikeのように決済手数料を無料としてしまう企業も現われた。また、マウントゴックスの破たんで注目を浴びたビットコインも、海外ではビットコインを扱えるATMが登場するなど拡大の様相を見せている。
ブルーオーシャンが一転レッドオーシャンに
上記のように参入が続いている理由は、決済市場がそれだけ魅力的なことに他ならない。 クレディセゾンの推計によると、2012年の個人消費約280兆円のうち、現金決済が55.8%を占める(口座振替:22.7%、クレジットカード:12.7%、電子マネー:2.6%)。 これは、現金決済からクレジットカードや電子マネーに移行すると、大きな手数料の市場が生まれることを意味する。 たとえば、現金決済から非現金決済へ10ポイントシフトし、その手数料率が3%と仮定すると、手数料は約8,000億円にもなる。
これに対し、決済市場のメインプレーヤーは長年クレジットカード会社と銀行という状況が続き、手数料は高止まりしていた。これまでは決済システムやノウハウが参入障壁となっていたが、近年はシステム開発費用の低価格化等により参入障壁が下がり、チャンスと見た企業が続々と参入してきた。
今後、参入の可能性がある業界としては、電力・ガス業界が挙げられる。彼らも物流業同様に各地に拠点を持ち、かつ、家庭・企業とのネットワークも有する。電力小売りの自由化が迫る中、付加価値向上のため、決済まで含めたサービスを提供する可能性がある。
アグリゲーションサービスに期待
財布に入っているクレジットカードは平均1.6枚、電子マネーは平均0.9枚、合計2.5枚だという(日本デビットカード推進協議会調べ)。おサイフケータイを使ったとしても、消費者が実際に使い分けている決済手段は3~5種類程度であろう。
一方で、決済事業者は上述の新規事業者以外にも、クレジットカード会社・銀行・電子マネー事業者等たくさんある。消費者の立場からすると、決済事業者間の合従連衡や提携を期待したいが、各企業の思惑もあり難しい。 幸い、物理的なカードを1枚にまとめるCoinや、スマホに登録したカードで決済できるMasterPassといったサービスが開始されつつある。今後はこうした決済手段のアグリゲーションサービスが増えることが予想される。さらに、店舗ごとに最も適切な決済手段を自動的に選んでくれるようになると消費者としてはありがたい。
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