勃興するMOOC
ここ最近、「MOOC(ムーク、Massive Open Online Course)」という言葉をよく聞くようになった。MOOCは、大学の授業をインターネットに公開し、誰でもインターネットを介して受講できる大規模公開オンライン講座のことである。
スタンフォード大学やMIT、ハーバード大学等、世界の有力大学が後押しする形で、Cousera(コーセラ)、Udacity(ユダシティ)、edX(エデックス)等のMOOC運営者が存在感を示している。日本でも、東京大学、京都大学が、上記MOOCに参加している。
大学の講義映像や資料をオンラインで見られるサービスは今までも、オープンコースウェア(OCW)や、iTunes U等があったが、MOOCでは、それ以外に、オンライン上で宿題を出したり、授業の内容を議論するためのコミュニティや掲示板を持つ。また、受講を完了すると、修了書をもらうことができる等、コンテンツのみならず、授業全体をサポートしているところが目新しい。
MOOCが授業のあり方を変えていく
MOOCの目的の一つは、発展途上国等、地理的・経済的制約のため、これまで、大学教育を受けることがなかった人たちに、その機会を提供することであるが、MOOCは、既存の大学教育そのものも変えようとしている。
例えば、大学の授業に、MOOCを取り入れるケースがでてきている。これは、「反転学習」と呼ばれる教育手法だ。学生は、事前にMOOCで予習しておき、教室では、予習を前提とした学生同士の議論や発表などの実習が中心となる。すでに確立された正解をトレースするのではなく、未解決の課題に対して、手持ちの情報を活用して解決にあたる問題解決型授業への転換である。
また、学生が予習する際、MOOCサーバ側に記録されるログを活用することで、学生の授業ビデオの視聴状況(同じ箇所を繰り返しみたか)や、宿題の回答状況から、学生がどこでつまづきやすいか、を特定しておくことができる。教員は、こうした情報をもとに、つまづきやすい箇所を丁寧に説明するなど、授業の進め方に反映できる。
オープンエデュケーション VS 大学
現状のMOOCは、上述したとおり、有名大学の授業をネット上で再現したものであるが、次の流れとして想定されるのは、大学教員でない一般の人達が教材を共創し、授業ビデオを公開し、大学の授業と同等の競争力を持つことである。
インターネットが可能にした「オープン化」という流れは、オープンソース・ソフトウェアを皮切りに、オープンソース・ハードウェア、オープン百科事典、オープンサイエンス、オープンデータ、といった活動を生んだ。これら「オープン」に共通するのは、様々な参加者が、インターネットを使って、オープンに、議論しながら、モノを共創することである。この大きな流れが、教育分野にまで押し寄せた成果が、MOOCであり、より広く、オープンエデュケーションと呼ばれる。今後、大学は、否応なくこうした無数の草の根の教育活動と、対峙していく必要に迫られていくだろう。
これまでも、「オープン」は、競争力のないビジネスを淘汰してきた実績がある。大学だけがオープンとの競争から距離をおけるわけではない。大学の定員割れや、教育水準の低下が叫ばれる昨今、大学は、MOOCに負けない、独自の強みや特徴を磨く必要がある。今こそ大学は、最高教育機関としての矜持が求められる時代なのである。