携帯電話各社から音声の完全定額制やパケットシェア方式など新しい料金メニューが提供され始めた。これらは米国の料金体系を参考にしたものである。今回は料金定額制と通信サービスのあり方について考えてみたい。
料金定額制が市場変化をもたらす
通信サービスは料金定額制で使い方が変わるのはよく知られている。例えば、古くはテレホーダイと呼ばれる23時から8時の夜間から早朝時間帯のみが定額のサービスがあった。モデムを使ってダイヤルアップでISPのアクセスポイントに接続してインターネットを利用したことを記憶している人もいるだろう。その後、ADSL等の常時接続の定額制サービスによって徐々に廃れたサービスでもある。常時接続の定額制サービスにより家庭でのインターネット普及率が急速に高まった。
携帯電話の場合も料金による市場変化があった。NTTドコモは2001年10月に3Gサービスを開始した。2Gに比べて高速通信できることで利用範囲が広がったものの、2G/3Gデュアル端末がなかったため、3G基地局整備が間に合わずにエリアが狭かった点が不評で、なかなか3Gへの移行が進まなかったという経緯がある。そこで、2004年にパケット料金の単価を下げて移行を促す戦略がとられた。パケ・ホーダイなどの通信事業者各社のパケット定額制もほぼ同時期に導入されたものである。各社のパケット定額制料金戦略により急激に3Gへ移行が進み、例えば、ドコモでは1年間に1000万契約、2年間で加入者の約半数が3Gに移行した。もちろん、様々な端末やサービスが提供されたという点も大きい。
音声定額制はLTEへの移行をうながすか
これまで多くの通信事業者は音声定額制サービスは完全な定額制ではなく、自社内、家族間、通話時間、時間帯等の制約があった。音声サービスの完全定額制となる新たなメニューに合わせて、3Gの音声サービスではなく、VoLTE(Voice over LTE)という音声サービスが開始される予定となっている。このことで、3Gから3.9G(LTE)への移行が進むのだろうか。
3Gでは、音声通話は回線交換、つまり、データ通信に使うパケットによる通信とは別の音声用の特別な仕組みが用意されている。一方、3.9Gと分類されているLTEやWiMAXではデータ通信のみに対応しており、音声通話はできなかった。そこで、新たな音声方式であるVoLTEが導入されることになり、音声もパケット方式での通信になり、データ通信と同じように扱うことができるため効率的になった。そのため、これまでよりも同時音声通話数等の容量が大きくなり、通話当たりのコストが下がることで、音声定額制が実現したと考えられている。しかしながら、従来の3G契約でも音声定額サービスを利用できるようになっていることから、必ずしも技術的な進歩により可能になったわけではない。LTE移行を進めたい、あるいは、スマートフォンへの移行を促したい通信事業者の戦略が影響している。3GユーザをLTEサービスに引き込むのであれば、音声定額サービスは3Gよりも安価にすべきだろう。
通信事業者のメリット・デメリット
通信事業者にとっては、定額制の場合には価格設定が重要だろう。従量制課金の場合の分布や平均を考慮して設計することになる。平均よりも料金が高すぎても利用者が増えない、低価格であれば従来よりも売上が減少することになる。ドコモの音声ARPU(1契約当たり月間平均収入)を見ると、平均的には値上げにつながるだろう。通信サービスに関しては、特に一度価格を下げた料金を上げるのは難しいことも事実であるし、LINE等の代替サービスもあることから、当面従量制で高い料金を支払っていた利用者のみが入る可能性が高い。ただし、低ARPUの利用者、月額料金が平均よりも非常に低い利用者からも定額料金で課金できるように、従来の料金体系を選べないようにして強制的に移行させる仕組みは少々乱暴ではないか。普及率がほぼ100%であり、ユニバーサルサービスに近いと考えれば、公共サービスとしてあまり利用しない層でも低料金で維持できる方法も用意すべきである。そのようなニーズには、プリペイド方式を使うことができるが、犯罪等不正な利用が多いなどの理由からソフトバンク以外は積極的に販売していない。また、ほとんどのMVNOは音声通話サービスを提供していない。
4G移行に向けた料金制度の検討も
ところで、現在急速に整備されつつあるLTEは海外では4G(第4世代)と呼ばれているが、厳密には4Gではない。電波方式はCDMAとOFDMAとの違いがあるものの、名前の通り3Gの延長(Evolution)という位置づけであるため、日本国内では3.9Gと呼ばれている。一方で、2012年1月にITU-Rの総会(RA-12)で、IMT-Advanced(4G)として標準化されている方式は、LTE-Advanced とWirelessMAN-Advanced(通称WiMAX2)がある。これらが真の4Gである。いずれも、高周波数帯(国内では3.4GHz-4.2GHz)を使ってサービスできるように現在総務省で割当のための準備が進められている。2015年中には周波数割当が行われ、2016年にはサービスが開始されるだろう。当面基地局整備にかかるコスト面から全国規模で整備することは想定されておらず、3G/LTEをベースとする混雑したエリア等に追加する方法が有力である。
通信速度の高速化ニーズはあるものの、これまで使われていない高周波帯であることもあり、4Gサービスの主な使い方については定まっていない。そのため、料金体系についても現在検討中だろう。少なくとも通信速度が2倍になったからと言っても料金を2倍にすることはできないことは明らかだ。通信事業者も通信速度で評価される「土管化」は避けたいところだろう。新しい方式への設備投資分を利用者に負担してもらうためには、オプション料金とする、既存の機器を更新してコストを下げて使える容量を増やす、低トラフィックの機器を安く多数使える方法などを考えることになりそうだ。例えば、接続台数無制限で全トラフィックに基づく料金などがありえるだろう。
本文中のリンク・関連リンク:
- VoLTE(Voice over LTE)仕組み(NTTドコモ)
- 音声ARPU推移(NTTドコモ)
- 4G周波数割当のためのパブコメ(総務省)