スマートシティを最適化システムとして捉える

スマートシティは2010年頃から世界各地で急速に実証実験が始まりだした。現時点で始まっているスマートシティ・プロジェクトの多くは、スマートグリッドに代表されるエネルギー効率化を目標としたエコシティである。今後は、モビリティ(地域交通網)に焦点を当てたプロジェクトも増えるだろう。そこではICTを活用したオンデマンドバスや電気自動車のカーシェアリング、ロードプライシング等が代表的サービスである。交通渋滞の経済損失とエネルギー消費の削減が目的である。

スマートシティをシステムとして考える

スマートシティとは何か、改めていろいろな定義を調べてみると、ICTを用いて社会インフラを効率化・高度化した都市というのが最大公約数であろう。これに加えて、ICTを活用した市民生活の質の向上や経済活動の促進を挙げている場合もある。これをシステム論の観点から見ると、都市・地域における経済・社会活動を最適化(効用最大化やコスト最小化)していることに他ならない。

このシステムの構成要素は、システム、センサ、コントローラ、アクチュエータである。対象となるシステムである経済・社会活動に対し、センサから「情報収集」し、コントローラである情報システムが「データ分析」して、アクチュエータで「働きかける」、というものである。

このように考えると、エコシティとは、エネルギーを消費する様々な経済活動(システム)に対し、スマートメータから需要状況や新エネルギー発電機器から供給状況を情報収集し(センサ)、それをデータ分析して最適に配電する(アクチュエータ)という仕組みである。ここまでは完全にコンピュータで自動化された世界である。これに加えて人の心理に働きかけるアクチュエータもある。すなわち、真夏の昼間に需要が急増したら電気料金を一時的に値上げする変動料金制度は、もったいないからエアコンを切ろうという行動を促す心理的アクチュエータである。

スマート医療シティは、寝たきり期間の最小化が目標

では、エコ、モビリティに続くスマートシティの形は何であろうか。総務省の「ICT街づくり」では、防災や地域医療連携、地域コミュニティ活性化まで拡げて、スマートシティに取り組んでいる。これもシステム論の観点からみてみると分かりやすい。

これまで医療の最大の目的は、病気や怪我を治すことであった。しかし、近年医療技術の進歩に伴い長寿命化が進み、医療費の高騰が社会問題になってきた。特に高齢者の医療費削減が大きな課題である。高齢者の自己負担比率を上げるという話は、不要不急の診療を削減するという意味では、一定の医療レベルを保ちながらコスト最小化する、という一種の最適化を試みている。ただし、個別個人に対する情報収集(センサ)はせず、働きかけも一律の自己負担アップ(アクチュエータ)という意味で、まったく「スマート」ではない。

スマート医療シティでは、病気にかかる以前の未病段階から、定期健康診断やデジタル健康機器(センサ)によって日常的に健康情報を収集することから始まる。病気兆候のある方々への働きかけは様々である。メタボであればフィットネスクラブを紹介し、足が弱って自宅に閉じこもり気味な高齢者に対しては地域コミュニティへの参加を促す。このような働きかけ(アクチュエータ)によって最適化したいことは、一生の最後に訪れる寝たきり期間の最小化である。寿命が尽きるギリギリまで、健康で活動的な人生を送れるようにすること、それは医療費の大幅削減だけでなく、スマート医療シティに暮らせば幸福な人生を全うできるということを意味するのである。

ワンストップ窓口はスマート行政

行政業務にもスマート化の流れは訪れている。その先駆例が地域情報プラットフォームによるワンストップ窓口である。行政内部に散在していたデータベースをマイナンバーも活用して連携できるようにする。行政業務に必要な情報を収集し(センサ)、窓口担当者に情報を送り出す(アクチュエータ)ことで、市民の待ち時間と職員の業務時間を最小化すると同時に、市民へのサービス価値も最大化する仕組みである。

ただし、多くのワンストップ窓口は、市民が希望した手続きの範囲に止まっている。福岡県粕屋町の「インテリジェント型総合窓口」は、個人・世帯の属性に応じて、受けられる可能性のある制度やサービスを自動的にピックアップして案内してくれるそうだ。これができてこそスマート行政と言えるだろう。

働きかけ効果の定量化がスマートシティ成功のカギ

スマートシティを都市機能・地域機能の最適化というシステム論観点から考えてみた。エコ、モビリティ、医療、行政と紹介したが、他にもいろいろ考えられる。全体として最適化(最小化・最大化)したい問題は何か、アクチュエータとして何が使えるか、特にこの二つを明確にすることが重要である。

例えば、スマート防犯シティなら、犯罪発生率と防犯コストを同時に最小化する問題と捉えることができるだろう。働きかけとして、防犯カメラで犯罪を画像認識して警報を出すという高コストで直接的なものから、犯罪発生をきめ細かく分析してリスクの高い地域に優先的にパトロールするなど、費用対効果を高める施策もある。これらの働きかけが、どれほど最適化に効くかを定量的に分析すること、それがスマートシティ成功のカギであると考える。