ITで変わる自動車のHMI

先日、隔年で開催されている東京モーターショーは10日間で総来場者数90万人と非常に多くの入場者数を集めた。前回に比べても7%増しており、国内販売台数が減少する中で、最近の円安傾向で業績回復している自動車業界には朗報だ。ショウでは、EVやPHVの活用や燃料電池車といったエコカーを前面に出しながらも、ソフト的な機能面でのアピールも増えている。

運転操作の自動化

昨今ニーズが高いのは安全に対するものだろう。最近の自動車メーカーのテレビCMで、衝突軽減ブレーキのデモ映像が使われているようにインパクトのある機能である。技術的には、高周波のミリ波レーダー、赤外線レーザー、ステレオカメラを使って前方障害物との距離を計測することでブレーキをかける仕組みである。従来、車両価格が比較的高い車両に搭載されていたが、数万円から10万円程度で軽自動車に搭載されるようになってきたことは注目に値する。エアバックやABSといった今や標準装備されているのを見ると、数年後に標準装備されても不思議ではない。実際に、EUや米国では商用車への装着義務化が進められている。

ところで、東京モーターショーや先立って10月に東京で開催されたITS世界会議で注目されたのは、現在メーカー各社が開発中の自動運転車両だろう。これまで自動運転といえば、Google自動運転車が実際の街中を走っていることがよく知られている。また、DARPAがスポンサーとなり、2004年から2007年まで3回に渡り実施された、軍事利用を想定した自動運転車のコンテスト Grand Challengeでは、砂漠と都市を対象に行なわれた。時間内に複数の参加者が完走できるようになり、コンテストは終了した。いずれの車両も、ステレオ画像や全方位型のレーザーレンジファインダ(LRF)といったセンサを用いて非常に多量のデータを処理することで周辺環境を認識していた。

既に、歩行者の飛び出しがないなど限られた環境である高速道路での車線検出による維持機能や先行車速の加減速に応じて自車の速度を調整するクルーズコントロールも高級車以外でも利用できるになってきており、操作の自動化技術の普及は進んでいる。確かに、一般道路上での完全自動運転できるようになるにはまだ遠い将来であるにしても現実的な機能を採り入れて、自動運転を利用できる社会環境を整備していくことが望ましいだろう。今後、自動運転による事故が起きた場合の責任範囲など懸念点はあるものの、ドライバ負荷の軽減システムとして導入されるはずだ。

表示が変わる

これまで、ヘッドアップディスプレイ(HUD)をはじめとしてドライバに対する情報を表示するための技術を中心に開発が進められ、コスト面から表示の液晶化と機械式ボタンからタッチパネルへの移行が進んでいる。東京モーターショーでも、タッチスクリーン型インターフェースを使ったコンセプトカーが複数展示されていた。室内中央にレイアウトしたり、スマートフォン等と連携して情報を共有したりと新しい使い方が提案されている。こうした動きは「コネクテッドカー」として車内外のデバイスを接続して利用できるように開発が進められている中から出てきたものである。具体的には、カーナビとの連携や外部との周辺情報の通信での利用が想定されている。より進んだ使い方としては、前述の自動運転に必要な情報処理の一部をクラウド側で行ったり、センサのデータを集約して運転状況解析したりという広くつながることが期待されている。

意識も変わる

こうした技術の普及に伴い事故が発生する可能性も否定はできないが、自動運転技術があることで防げる事故もあり、必ずしも否定的になる必要はないだろう。また、運転する楽しみを完全に奪うものではない。乗用車のAT化率が100%近いことを考えれば、ITの支援なしで運転できない層が出てきたり、そうした意識が徐々に変わってくるのではないだろうか。