携帯電話の15cmガイドラインと電波環境の変化

以前のコラム「携帯電話の22cmガイドラインの行方」で2011年時点での展望を示した、電波の医療機器等への影響に関するガイドラインは、2013年1月に正式に改正された。当時予想した通り、22cmから15cmに緩和されることとなったわけだが、今回は、このガイドライン改正後の状況の変化について紹介する。

改正されたガイドラインの内容

総務省では、2013年1月24日に『「各種電波利用機器の電波が植込み型医療機器へ及ぼす影響を防止するための指針」の改正案に対する意見募集の結果及び指針の改正』として、当該指針(以下、ガイドライン)の改正を発表した。改正の概要は発表にある通り、次の3点である。

  • 離隔距離の見直し(22cmから15cmへの見直し)
  • 携帯電話端末の所持者に対する注意事項の修正
  • PHS端末の取扱いに関する修正

離隔距離の見直しは、国際規格と過去の測定実験を踏まえて、さらには国内での第2世代携帯電話サービスの終了を契機に、緩和されることとなった。

22cmと15cmの違いは、通常の携帯電話の使用ではあまり感じられないだろう。そこで今回の改正では、携帯電話の所持者に対して、満員電車などで身動きが取れない状況において15cm離すように注意を促すとともに、確保できない場合には電波を発射しない状態に切り替えることが望ましいとしている。改正前には「電源を切る」としていたものを、現在の携帯電話の「機内モード」などを想定して、携帯電話の所有者の利便性への配慮もした改正となった。

ガイドライン改正にともなった動き

ガイドライン改正を受けて、具体的な動きも見られる。2013年9月28日に毎日新聞が報道したところによると、京阪電車では2013年3月から、混雑時を除いて「電源オフ」の呼びかけを取りやめているそうだ。電鉄他社でもこうした取組に関する検討は行われているようであるが、実施の是非については電鉄会社がそれぞれ判断しているため、全国一律での実施とはなりにくいだろう。

上記報道でも言及されているが、現状の電波環境で実際に問題があるかどうかだけではなく、これまでの「影響がある」とされていた状況を含めて、ペースメーカ装着者の方に不安を与えない配慮として、どのような行動を取るかという観点が重要である。

ガイドラインの改正でも「機内モード」への考慮が示されたが、実際に目の前で使われている携帯電話が機内モードなのか否かは、外観からはわかりにくい。改正前の指針で、PHSが携帯電話と外観上見分けが付きにくいという理由から、PHSも携帯電話と一律にガイドラインの対象としたことと同じように、ペースメーカ装着者から見て、携帯電話が「安全な状態」であることを示すには、現状では「電源オフ」するしか無いだろう。

携帯電話以外の電波環境の影響

ガイドラインでは、従来から携帯電話以外の機器についても言及している。ワイヤレスカード(非接触ICカード)システム、電子商品監視装置(EAS機器)、RFID機器(電子タグの読み取り機)、無線LAN機器などが含まれるが、ペースメーカ装着者が日常的に密着する可能性のある機器はこれだけではない。

例えば、自動車のスマートキーシステムやIH調理器などは、最近普及が進んでいるが、そこから発生する電波については留意が必要である。また、最近では2013年6月に、電気自動車向けの充電ステーションの電磁波によるペースメーカに対する影響が、厚生労働省から指摘されている。電気自動車の今後の普及に伴い、充電ステーションの整備が進むことを考えると、ペースメーカ装着者が留意すべきエリアが増えることになる。

携帯電話に関しては技術的な進歩により幾分安全な社会になった反面、新たな機器や電波の利用により、従来は無かった電磁波の影響が登場するのは、時代の流れから致し方ない面がある。そうした状況に対応するためにも、実際に影響が起こりうるのか実証実験などを通して確認するとともに、ペースメーカ装着者の不安を軽減するための、適切な情報提供とコミュニケーションが重要である。