離陸なるか~ウェアラブル・コンピュータ~

市場に出回り始めたウェアラブル・コンピュータ

身に付けるコンピュータ「ウェアラブル・コンピュータ」が盛り上がってきた。

韓国のサムスン電子は、2013年9月に、腕時計型コンピュータ「GALAXY Gear」を発表した。同社のスマートフォンと連携しながらの機能ではあるが、腕時計に、電話や、音楽プレイヤー、カメラ、オークション、ヘルスケア、カレンダー等アプリを詰め込んだ。Appleも、同様の時計型コンピュータ「iWatch」を開発中との憶測もある。

一方、Googleは、Google I/O 2012で、メガネ型コンピュータの「GoogleGlass」を発表。2013年4月より、開発者向けに限定販売を始めた。メガネを通して見ている事物の写真やビデオの撮影機能、ネット検索や、撮った写真のアップロード、ビデオ会議等ネットワーク機能、目的地までの移動をナビゲートする道案内機能等アプリが提供される。また、Google Glass用アプリ開発環境 Glass SDK が提供され、スマートフォン用OSのAndroidと同様、多くの開発者からアプリが量産されるエコシステムの構築をねらう。

これらのコンピュータは、メガネ型、時計型といった身体に密着したコンピュータであり、持ち運ぶというより、身に付けるといったほうが正しい。この意味で「ウェアラブル・コンピュータ」と呼ばれる。

ウェアラブル・コンピュータの歴史は意外と古い。Steve Mannが、リュックサックに入れたコンピュータと、ビデオカメラを取り付けたヘルメットからなるお手製ウェアラブル・コンピュータを作った1981年を元年とすると、もう30年以上、様々な製品やアプリケーションが開発・販売されてきた。
しかしながら、機器類が大きかったり、それに見合う実用性を示すことができずに、市場として離陸出来なかったのである。

ウェアラブル・コンピュータの本質は「コンピュータとの一体化」

しかし、ここへ来て、上記のとおり、スマートフォンで成功を収めたGoogle、Apple、サムスン電子といったITベンダーが、ブルーオーシャンを求めるがごとく、ウェアラブル・コンピュータを製品化しようとしており、ようやく市場として離陸する可能性が出てきている。

ウェアラブル・コンピュータへの期待が高まるきっかけの一つは、やはりスマートフォンの普及である。それまで、コンピュータといえば、机に鎮座するPCであり、マウスとキーボードで、ウェブブラウザや、オフィスソフトを操作するものだった。スマートフォンは、このコンピュータを、小さな筐体に納め、手軽に外に持ち出せるようにした上、タッチパネル、カメラ、GPS、ジャイロ等、様々なセンサーを搭載し、キーボード以外のインタフェースから、情報をインプットできるようにした点が新しい。多くの人にとって、PC以外のコンピュータに触れる第一歩がスマートフォンだったのである。

ウェアラブル・コンピュータはさらにこの方向の延長上にある。スマートフォンを操作するときは、アラートや着信音を起点に、端末の画面を覗きこみながら、画面にタッチするなど、能動的にリアルな世界からコンピュータの世界へと意識を切り替える必要がある。一方、ウエアラブルコンピュータでは、かけている眼鏡がそのままディスプレイとなり、センサーでの情報感知や、音声指示によりコンピュータを操作できるから、意識を切り替えることなく、リアルな世界にコンピュータの世界が重ね合わさる。このように、自分自身とコン
ピュータを一体化することが、ウェアラブル・コンピュータの本質なのである。

一方で、前述のサムスン電子のGalaxy Gearに関しては、期待はずれの声もあるようだ。
Galaxy Gearの諸機能は、常識的なスマホフォンの機能に留まり、いくらスマートフォンがメガネや時計に形を変えたところで、それはウェアラブル・コンピュータの名前に値しない、という評価である。

では、ウェアラブル・コンピュータならではのキラーアプリは何だろうか。ポイントは、リアルな世界で目にする事物と、コンピュータで管理されるデータが、即時的に一定精度で関係付けられることだろう。そういった意味で、ウェアラブルコンピュータとAR(Augmented Reality、拡張現実)との融合は必須で
ある。メガネを通して見る風景や、建物、お店に関する情報が提示され、場合によっては適切な行動を促す。こうした、日常の生活支援型アプリケーションがウェアラブル・コンピュータ本命である。

ウェアラブル・コンピュータ普及への課題

一方で、ウェアラブル・コンピュータ普及への課題もある。

特に懸念さているのが、先端テクノロジーにつきもののプライバシー問題だ。Google Glassは、前述のとおり、カメラが搭載されているため、カメラを構えることなく、見たものを撮影することが自然に出来てしまう。米国の一部飲食店等では、早くも店内でのGoogle Glassの利用が禁止されているようだ。

一方で、使う側のプライバシーが侵害されてしまう懸念もある。最近、スマートフォンの位置データや、駅の乗降記録データの第三者利用が、プライバシー侵害に当たるとのニュースがあったが、ウェアラブル・コンピュータは、自分が目にするものや、身体記録データ等、よりプライベート性の高いデータが吸い上げられることになる。サービス提供側は、ウェアラブル・コンピュータの収集データの対象、利用に関して一定のルールを定めることが必要となるし、使う側にも、ウェアラブル・コンピュータを使う際のルールが醸成されていく必要がある。ウェアラブル・コンピュータ普及のためには、もはや技術的な壁よりもこうした社会的な問題を解決する必要があり、まだ普及に時間を要する可能性も高い。