資金調達もクラウドで

今シーズンは銀行を舞台にしたテレビドラマが大人気だ。ドラマでは貸付金の回収が焦点になり、主人公が奔走する。ところで、借りる側の立場にとっては借入金は負債であり、金利を払いつつ、期日内に返すことを約束したものである。金利は借りる側の信用力によって異なるのが一般的だ。しかしながら、実績や資産のないベンチャ企業にとって、借入金(デット)として資金を調達するのは難しい。そこで、返済義務を負わないエクイティファイナンスとして、ベンチャファンドから投資という形で支援を得る方法もあるが、それ以外の方法としてクラウドファンディングが注目されている。

クラウドファンディング

クラウドファンディングとは、クラウド(Cloud)サービスの雲を表すクラウドではなく、群集を意味するクラウドCrowdと資金調達を意味するファンディングFundingを組み合わせた用語で、アイデアや試作品を持つベンチャ企業や個人に対して、不特定多数の人から出資してもらって、事業を促進するための仕組みである。出資する側は、数千円から数万円の出資額に応じて、プロジェクト実施者からギフト(見返り・お礼)を提供される。2008年に米国でIndiegogoが開始し、次いで翌2009年にはKickstarterが開始された。その中でも最大手のKickstarterには、2013年8月現在11万のプロジェクトが登録され、そのうち44%が資金調達に成功し合計6億4200万ドルの資金調達が行われている。2012年には、41,765件のプロジェクトが開始され、約224万人が総額約3億2000万ドルの出資を約束し、目標額を達成し実際に出資を集めることができたプロジェクトは18,109件にもなった。

また、日本でも、READYFOR?などクラウドファンディングが立ち上がりつつある。ただし、広く出資を募るという意味では、グローバルから調達する方が可能性がありそうだ。

死の谷、ダーウィンの海を乗り越えて

ところで、研究開発資金を集めて事業化を推し進めるというのは、研究開発マネジメントでよく言われる、実用化研究から製品化までの間に資金が続かずに開発が止まってしまう死の谷(デスバレー)を超えることにつながるものである。クラウドファンディングで単純に資金調達がしやすくなるだけではなく、早い段階でアイデアの段階から情報が公開され、さらに出資する人の数で製品やサービスのニーズを知ることができ、技術や製品の方向性や売り方にも好影響につながるものである。逆に言えば、通常製品を投入した後に市場で競争が行われ淘汰されていくことはダーウィンの海と呼ばれるが、クラウドファンディングでは、資金調達を進める段階で淘汰が始まっていると考えられる。

資金調達した実例を見ると、Andoridベースのゲーム機OUYAは、Kickstarterで2012年7月に情報が公開されてから63,416人から約860万ドルを集め、2013年6月から100ドル弱で販売が開始され、オープンソースのIT機器として注目を浴びている。同様に、100万ドルを超えるような多額の資金を調達したものとしては、ガジェットと呼ばれる機器が多い。

N倍返しが必要

負債である銀行からの借入金や社債の場合には金利と元本を返せばいいが、出資に対しては、一般に金利よりも高い期待値が求められる。つまり、借りる側にとって返還義務のない出資は、0円になるハイリスクと金利よりも高くなるハイリターンが求められるお金である。同様にクラウドファンディングで出資した人は、応援するためや製品が完成した時の製品購入する権利として、将来の事業に対する寄付に近いと考える人もいるだろう。しかしながら、寄付だけでは事業が長期に続かないことが多い。資金調達したものの事業がうまくいかずに、その事業内容が明らかになると、出資者の不満が高まり、詐欺行為としてもめるケースもある。国内でも過去に失敗した事例もある。2000年前後に当時人気のあったMS-DOSが稼動するPDAを製作するプロジェクトであるMorphyOneや学費を支払えない学生を支援するための資金を集めていたstudygiftなどがある。

また、クラウドファンディングでアイデアや試作品を公開することは、類似の商品やサービスを資金力のある企業に先に作られる可能性がある。その対策として、知的財産権をあらかじめ確保しておくことは重要であるが、ライセンス契約や差し止めなど何らかの対抗手段を行使しない限りにおいては意味を成さない。日本人が得意とするやり方ではないが、グローバルでビジネスをするために仕方がない面もある。ドラマでは「やられたら倍返しだ」というセリフがある。クラウドファンディングで資金調達がやりやすくなったとしても、経済原理に基づき、借入金に対する金利以上に返さないといけないのがエクイティファイナンスであり、ある程度強硬にやり返さないと経済的価値が産まれないのが知的財産であることを認識する必要があるだろう。

今後プロジェクトの件数が増えるにつれて、資金を調達しても失敗する事例も積み上げられることから、クラウドファンディングのプラットフォームも単純に出資者とプロジェクト実行者とのマッチングサービスで手数料を取るだけではなく、プロジェクトが成功するような仕組みを提供していくことが求められるだろう。また、プロジェクトを実行する側にも資金調達の方法が増えても製品やサービスの魅力がなければ資金調達がうまくいかないし、事業のビジネスモデルがなければ事業を継続させることが難しい点についてはこれまでと変わりがない。クラウドファンディングによる資金調達は、ベンチャファンドが期待する期待収益率よりは低く、事業を進める上では有利となる可能性もあるだろう。