「柔軟な」情報システムを作るには?

組織再編を繰り返す企業等にあって、『「柔軟な」情報システムとするように』という経営層の指示は、改めて取り上げるまでもなく、かねてから多いものである。ここでいう「柔軟な」の内容は端的に言えば「経営環境・事業環境が変化した際に情報システムの改修が足かせとならないように」であったり、「柔軟に各種の情報を取り出して経営管理や事業管理に役立てることができるように」であったりする。

大きくは、以下のようなポイントを挙げることができる。本稿では、情報システム部門は、どうすればよいのか?を考えてみたい。

  1. 環境の変化に応じて、業務システムを取り換えられる。
  2. 新たな事業・取引に対応して、必要な情報システムを迅速に立ち上げられる。既存業務の変更に対して、機能追加・改修が容易。
  3. 各種データを統合して分析できる。

業務システムを取り替えられる構造の実現

一言で、業務システムを取り替えるといっても、生易しいことでないことは周知の事実である。ITの世界では、従前から「SOA」の考え方として言われてきたことであるが、実際に適用できている企業は決して多くない。技術的には、業務システムの多くが、(クローズドな)「パッケージシステム」であったりして、簡単にサービス化できないという背景もあるが、筆者の経験では、以下の困難が伴うためにうまく実現できていないことが多い。

  • ①業務パッケージの持つ機能で、処理を完結させることが難しく、多くのシステムとの連携が発生する。
  • ②似た機能が複数の情報システムに散在して、互いに影響し合っている。
  • ③ハブになっている旧式の現行システムがあり、業務上の主要なポイントで接続が必要。

①については、非競争優位の業務領域については、できるだけパッケージ標準を適用することを徹底することと昔から言われているが、結局、現在の業務処理を変更できないことが多い。自社の事業・業務のアーキテクチャを定義し、その上で、どこに自社の競争優位があるかを客観的に捉えたとしても、検討を進める中で、自社の個々の「業務」そのものの目的に照らした変更の検討ができず、現状維持に留まることが多い。結果、要件定義が終わってみると「カスタマイズ」「アドオン」の比率が上がっている(予算も超過している)ことが多い。
⇒投資額の削減・保守コストの低減(特に、法令対応等)を狙った業務パッケージの適用が望ましい業務なのか、Genexus等の開発基盤を利用したスクラッチ開発を目指したほうがいいのかの検討が必須である。また、業務パッケージの適用を選択したら、業務に「割り切り」を入れるようなプロジェクトの建付けが必要である。業務のキーマンの取り込みや、ある程度トップダウンに「割り切り」を入れる意識付けが必要である。開発基盤を活用したスクラッチ開発を選択したのであれば、情報システム部門内部にその基盤を活用し、システムを進化させていくための役割・体制を置く必要がある。

②については、業務システムの中にクローズして持たせる機能か、共通機能として括りだすものかの決定がつきにくい。括りだすに当たっては、共通基盤(古くは「フロントエンド」といわれた形で実現するか、最近では「BPM」等の仕組みを活用するか)の適用を事前に決めておく必要がある。

③については、ネックとなっているシステムに一緒に手を入れることが、投資額的に困難であることが、問題の解消を妨げていることも多い。別項で近年のIT投資判断の動向について検討したい。

業務システム自体の柔軟性の確保

業務システム自体の柔軟性を上げる方策をシンプルに言えば以下の形となる。

  • 業務パッケージ適用の場合
  • 業務パッケージにできるだけ手を入れない。不足機能は可能な限り外付けで実現。
  • 業務パッケージを適用しない場合
  • 開発基盤を利用したスクラッチ開発を選択する場合は、データ構造をきちんと掌握し、影響範囲を常にマネジメントできるようにしておくことで、保守性を上げる。

    データの統合度の確保

    データエントリーの部分からの統合度の向上を狙ったSAP ERP等に代表されるERP製品を活用することも1つの考え方であるが、実際には、EPRシステムのみで業務システムをまかなうことはできない。このようなERPシステムを利用している場合も、周辺に、各種のシステムが展開されているのが通常である。

    複数の業務パッケージを適用する場合は、事業間の共通コードを作ってくくりを入れて、会計実績等の集積時には共通コードを活用する形が有効である。

    一方、中核に大きなERP、周辺にスクラッチのシステムという構成を採るのであれば、ERPに如何に精度良いデータを流し込むか、そのコード体系に合わせるように周辺を作るかに成否がかかってくる。

    情報システム部門としては大きなシステムアーキテクチャの方向を確りと持ちながら、コード管理の観点で全社を見渡しながら運営ができるようにすることが大切である。

    上記に挙げた個々の技術要素をいかに取り入れながら、「柔軟な」情報システム体系に向けた整備を進めていくことが重要であるが、それぞれの技術要素の適用にあたっての留意点等については、次回以降に改めて論じたい。

    「システム・モダナイゼーション」として当社が提唱している事項については、以下のリンクもご参照いただきたい。