クラウド等のICT技術が確立してきたことにより、中小の地方自治体や地域の人びと、企業による情報発信や産業育成の裾野が急速に広がっている。今回は地域活性化におけるICTの役割に着目したい。
地域の観光情報発信・サービス高度化の広がり
求心力のある観光地の影に隠れていた地域からの魅力発信や、新興地域での高度観光サービスの実験が、地域主導の観光ICTとして注目されている。
近年地方自治体のソーシャルメディア活用が進んでいるが、その中でも「沖縄離島ガイド・プロジェクトおくなわ」は、小規模な自治体が地域の魅力を効率的に発信した例として挙げられる。参加する離島5村は、これまで技術面・コスト面で実現出来なかった地元情報の全国的なPRをFacebookを用いて実現し、短期間の内に自治体として最大規模のページに成長した。Facebookというインフラを利用することで技術面・コスト面の垣根が低くなったこと、島民が協力して写真などを投稿することでコンテンツの更新の負荷が大幅に低減したことが成功の要因と考えられる。
また、2015年春の北陸新幹線の金沢開業をひかえる奥能登地域では、スマートフォンを活用した観光情報システムのモデル実験を今年の春から8月頃の観光シーズンに合わせ実施することになっている。実験ではAR(拡張現実)や多言語による情報発信のほか、アンケートや観光動線等のログ解析によるサービスの高度化を狙っており、スマートフォンの貸出も行なわれる予定である。地元企業が多く参画するこのプロジェクトには、これからの他地域でのモデルケースとして活用できるような成果を期待したい。
地場産品の生産現場のICT
ICTを利用して地場産品の販売促進、生産性向上に成功した事例も増えている。 岩手県大船渡市の「三陸とれたて市場」では日々、魚介類のトレーサビリティ情報や水揚げ情報のほか、生産者へのインタビューや調理の仕方等の動画などを配信している。生産現場の一連の流れを消費者に見せることで安心感を与えるほか、市場では評価されにくいサイズが異なる魚介類の販売拡大を実現することに成功した。消費者の安全意識にうまく応えつつ、自らの販売チャネルを広げた所が素晴らしい。
また農業では、早和果樹園と富士通によるICTを活用した高品質みかんの栽培や、NECとネポンによるハウス園芸の高度化サービスの事例がある。そこでは、農作物やその環境をセンサでモニタリングし適切な農薬の種類、散布時期・量のアドバイスをデータセンターから提供する。これにより生産性の向上が見込まれるほか、センサの情報と有識者の判断を蓄積することで勘と経験を可視化し後継者育成に繋がると考えられる。
ものづくりの現場では
一方、ものづくりの現場でも、地域の中小企業がICTを活用した地域クラスターを形成し、経済振興を行なっている取り組みがある。 東京大田区の「ものづくり太田LLP」や京都府の「京都試作プラットフォーム」は、企業のニーズに最適な外注先への仲介や各種製作に対する相談の窓口となり、相談から製作までスピード感のあるソリューションの提供や個別技術を連携した総合力の発揮がなされている。これらはいずれも地域企業による自主的な運営であることが特筆すべき点である。(詳細はこちら)
地域の魅力の伝承
上記のように、地域の魅力を発揮するためのICT技術が確立されつつあるが、特に市区町村レベルでの利活用はまだまだ低調である。(参考:平成24年度の情報通信白書によると、地場産業のICT利活用の取組を行なっている団体の割合は都道府県レベルで57.9%、市区で21.4%、町村は6.6%であった。)
ICT技術は、見知らぬ情報を世に伝える側面もあるが、ある価値観を支配的にする側面もある。魅力を伝えないままでいると、本来ある魅力を知らない上での価値観が支配的になりうる。観光地や特産品を知ってもらい、魅力ある地元を維持発展する活動にICT技術が利用されることが望ましい。先のおくなわプロジェクトやものづくりでの地域クラスターのように、ICTを活用することで日本の様々な地域の人たちの協力を効果的に実現し、沢山の魅力ある地域が維持発展していくことを期待したい。