ソーシャルメディアにおける影響力を測る ~ソーシャル・スコアリング~

ソーシャルメディアにおける影響力は?

ソーシャルメディアを活用したマーケティングの文脈でよく出てくるキーワードの一つが「インフルエンサー」だ。インフルエンサーとは、ソーシャルメディア上で大きな影響力を持つ人のことで、ソーシャルメディアでの特定商品やサービスへの言及が、しばしば多数の消費者の購買に大きな影響を与える。企業から見ると、こうしたインフルエンサーは、マーケティング効率上から非常に貴重な存在だ。ではどのようにしてインフルエンサーを探し出すか。

インフルエンサーを探す方法の一つがソーシャルスコアリングだ。ソーシャルスコアリングとは、個人のソーシャルメディア上の影響力を数値化することである。代表的なソーシャルスコアリングベンダーである Kloutは、複数のソーシャルメディアにおける活動状況や他人とのつながりの強さを測定し、そこから影響力を算出してKloutスコアとして表示する。Twitter、Facebook、foursquare、Google+、LinkedIn、Wikipediaなど複数のソーシャルメディアでの行動が評価対象となる。

Kloutの他には、PeerIndexKred等が有力なソーシャルスコアリングベンダーだが、日本国内では、アジャイルメディア・ネットワーク社が、mixi等国内SNSでの評価を加味したUser Chartというソーシャルスコアリングサービスを展開している。

米国では、ソーシャルスコアを活用したマーケティング施策も始まっている。航空会社キャセイ・パシフィックでは、Kloutの高いユーザーに限定して、航空券を無料で提供したり、VIPラウンジを無料で使わしたり、といった施策を実施した。

影響力評価のしくみ

ソーシャルスコアリングベンダー各社は、スコアリング手法について明らかにしていないが、ソーシャルメディアごとに、スコアリングに用いる変数については公開している場合が多い。例えば、Kloutでは、Twitterなら、被リツイート数、メンション(自分が発言したことに対して、何らかの意見をもらうこと)数、フォロワー数、リプライ数等。Facebookなら、メンション数、いいね数、コメント数、ウォール投稿数、友人の数といった具合だ。

この分野でよく引用される文献「Infuence and Passivity in Social Media」(HP研究所, 2011)の中では、ソーシャルメディア中の影響力について、以下のポイントが結論として述べられている。

  • ツイッターユーザの人気(フォロワー数)と、影響力の間の関係は予想以上に弱い。
  • 平均的な Twitterユーザは、318 のツイートに対して、1つのリツイートという低確率。ただし、リツイート数は、ユーザによりバラけており情報の拡散に一役買っているのは、一部ユーザのみ(つまり大部分のフォロワーは、情報の拡散には貢献しない)。

これに従えば、インフルエンサーとは、フォロワー数そのものよりも、フォロワーの質(拡散行動を実際に起こすという意味で)が重要であり、この点で、Kloutが、被リツイート数やメンション数を重視していることはこの研究結果にも整合しているといえる。

ソーシャルスコアリングが抱える課題

しかしながら、スコアリングの対象が、Webページならいざ知らず、人そのものであるというのは、中々シビアな話だ。実社会でも、面白い話を持っていたり、コミュニケーション能力が高い人はモテたりもするだろうが、こうした側面が数値的な成績として、算出されてしまうことのインパクトは大きい。なんだか人格を評価されているようで気持ちのいいものではない。

似たような話で、クレジットカードカード会社が、カード入会申請者の信用度評価(クレジットスコアリング)を実施し、カード入会の諾否や与信枠を決めているのは御存知の通りだが、ソーシャルスコアリングは、結果がWebで広く数多に公開されてしまう点で話はもっと大きい。

ソーシャルスコアのマーケティング活用事例については前述の通りだが、他には、Salesforce社が、社員募集の条件に、Kloutスコアを採用したという話もある。 こうした事例はまだ少ないが、ソーシャルスコアが市民権を得ていくにつれ、実社会への適用事例を増えていき、それとともに、こうした問題が増えていくだろう。

企業が、Google等検索エンジンで、自社Webページが上位に表示されるようにるSEO (Search Engine optimize)に血眼をあげるのと同じく、人間もまた、スコアを上げるためにソーシャルメディア上の行動をとるようになってしまうのかもしれない。ソーシャルスコアリングがうまくソーシャルメディアと共存し、健全な方向で成長していってほしいものだ。