クラウド時代・ビッグデータ時代のデータマネジメント

クラウド・オンプレミス(自営)混在のアプリケーション構成の主流化

SaaS/PaaSが良いのは、活用までのリードタイムが非常に短くスモールスタートやその後の拡張が容易であるとともに、初期投資がオンプレミス型のシステムに比べて僅かであるため投資対効果を獲得しやすい点である。企業システムでも採用が進んできているSaaS/PaaSといったクラウドサービスは、特にSaaSであれば、業界等で汎化された機能に特化して実現されていることが多い。これは、クラウドサービスが、IT資本を企業間で共有し利用に応じた課金を行なうサービスであると考えると当然のことである。

そのため、企業固有の競争力を生んでいる業務機能を支援するアプリケーションは、クラウドでの支援では十分ではないことが多い。結果として、適材適所での活用(いいところ取り)をしようとすると、企業活動を支援する情報システムがクラウドとオンプレミスの混在(ハイブリッド)とならざるを得ない。下図はこのような混在(ハイブリッド)型のシステム構成の概念を示したものである。

クラウド・オンプレミス混在(ハイブリッド)型のシステム構成の概念図
クラウド・オンプレミス混在(ハイブリッド)型のシステム構成の概念図

適材適所のアプリケーション構成とビッグデータ活用

上記のような「適材適所」型のアプリケーション構成を取るため、SaaS/PaaSといったクラウドサービスと社内基幹システム等との接続がうまくいかない場合、企業情報システム全体から見て、クラウドサービスがサイロ化(他の情報システムと接続されず機能・データが孤立した状態)してしまう懸念がある。実際に、人手による2重入力が発生しているケースや、そもそも接続をあきらめてサイロ化しているケースが散見される。

また、ビッグデータの活用に向けても、このような状況では、元データの収集がままならない。たとえば、顧客の様々な属性(静的な属性のほかに、購買行動等の動的な属性もある)と商品・サービス別の収益性を組合せた分析を行うにしても、顧客コード、商品・サービスコードがアプリケーションレベルで揃うか対応付けされなければ、貴重な個々の情報を追うことはできず、収益性の高い顧客を追いかけて働きかけたり、分析結果を商品・サービスの開発に活かしたりすることはできない。蓄積されたデータが十分に活用されず、事業機会を逸しているといえよう。

データマネジメントの重要性と取り組みの方向性

古くから言われていることであるが、浸透している企業が少ないのが、データマネジメント(より正確に言うと、企業情報システム全体のメタデータ・マネジメント)である。

大手から中堅のユーザ企業の情報システム部門で、自社で管理しているデータの概略をまとめた資料を尋ねても、管理されているというには遠い状況にあることが多い。もちろん、個別のシステムのDB定義書は管理されているのであるが、企業情報システム全体として、主要なデータがどう管理され、どう連携しているのかがつかめないのである。さらに、メタデータ管理が不十分で、同じ名称でも管理対象が異なっていたり、システム共通で管理すべき属性がバラバラに管理されていたりということが多い。

このような状態で新たなアプリケーションやサービスの導入を行おうとすると、既存システムとの接続がボトルネックになりかねず、情報システムがビジネス展開の足を引っ張っているとみなされかねない。こういった事態は、ビジネス部門・情報システム部門の双方で、自社が保有する情報資産とその定義・構造をきちんと整備しておくことによって、避けることができる。

クラウド化の流れの中で、よりビジネス展開への追従度を増した迅速なITサービス・ITシステムの導入・展開が求められていることや、ビッグデータの流れの中で従来とは比較にならないほど大量のデータを取り扱って自社の競争優位を生み出す(もしくは探索する)必要があることから、クラウド、ビッグデータといった潮流の中で、(メタ)データマネジメントの重要性はますます高まっているといえよう。実際に、データマネジメントを行うには、ビジネス設計を行う人材と協調して活動するシステム企画人材が(メタ)データ管理を担当するか、ビジネス設計の担当者そのものが(メタ)データ管理を行うなどの施策が必要である。

もちろん、すべてのマスタデータ、トランザクションデータのメタデータを一元的に管理し、その情報に基づいてデータウエアハウス等にデータ集積を行うためには、現有する情報資産の整理と維持に多大なコスト・時間を要する他、このようなデータ管理に長けた人材の確保という難題(ほとんどのユーザ企業において、このようなことができる人材は希少資源)に直面することになる。もし、十分にこういったデータマネジメントができていないのであれば、ビジネスの上流から下流まで一貫して利用される主要なマスタデータとトランザクションデータ(受注、発注、在庫等)を手始めに、メタデータ管理を行っていくことをお勧めする。また、これを契機に自社でデータマネジメントを行っていくためのリソースを確保していけば、結果として、情報システムの対応迅速性が増すとともに、よりよい品質のデータを蓄積し活用することが可能になろう。