家庭用3Dプリンタが欲しい

今年は3Dプリンタに静かな注目、しかし熱い注目が集まった年である。 3Dプリンタを使えば、誰でもパーソナル製造に手を出せるという期待が高まった。 「MAKERS―21世紀の産業革命が始まる」が出版され、 30年前のマイコンプログラミングの夜明けを思い起こした。

積み重ねて立体造形

3Dプリンタに馴染みのない方のために、簡単にその原理をおさらいしよう。 3次元CADデータやCGデータから、主として樹脂製の立体物を製造する装置が 3Dプリンタである。造形方法はいくつかあるが、いずれも0.1~0.2mm程の断面レイヤを、順次積み重ねて造形する。 積層造形(AM:Additive Manufacturing)と呼ばれる。

液状樹脂を紫外線で硬化する『光造形法』。粉末の樹脂を薄く敷きつめ、 レーザで加熱焼結する『粉末焼結法』。樹脂をヒータで溶かして層状に 押し付けるのが『熱溶解積層法』である。すでに10年以上の歴史があり、 主に試作品の製造に利用されてきた。 そして最近急速に伸びているのが2Dプリントで培われた『インクジェット方式』である。

これらは一長一短あるが、この数年で低価格化が進んだ。産業用途が中心であり、 まだまだ数百万円台の製品が多いが、 教育向けには10~50万円で10㎝ほどの立体造形ができる機種も登場している。

プロトタイプ製作から広がる用途

製品設計の試作品(プロトタイプ)製造が、3Dプリンタの主な用途である。 実際に手に取って、概観や操作性を確認するためである。 それまではクレイモデルや試作金型を製作していたため、 時間もかかり、費用も高かった。 これが3Dプリンタの登場によって、早く安くなり、 いろいろ試してみることができるようになった。 耐久性に優れたABS樹脂が使えるようになり、単なる形状確認だけでなく、 蝶番や歯車のような可動機構も実際に動かしてみることができることも進歩である。

プロトタイプ以外にも用途は広がってきた。特に医療が注目である。 CT画像から患部の3次元モデルを作ると、より良い手術法を検討したり、 患者に対し判りやすく説明できるようになるそうだ。もっと進んだ使い方として、 3Dプリンタでインプラントを作り、実際に患者に移植する臨床試験も行われている。

ちょっと面白い応用としては、 「自分フィギュア」 の制作がある。まず、ハンディ3Dスキャナで人体3Dデータを撮影する。 洋服の色や髪の質感など、3Dモデラーソフトで手修正した上で、 3Dカラープリンタでオリジナルフィギュアを出力するというものである。 そのリアルさには、ここまで来たかという驚きがある。

家庭用3Dプリンタの普及のカギはフルカラー化

市場レポートによると、3Dプリンタの世界市場は2011年に17億ドル、 成長率30%近く、2015年には37億ドルに達する見込みとのこと。 当面はプロトタイプ製作を中心とした産業用途がメインだが、 徐々に家庭用にも広がると期待されている。

現時点では、教育用でもまだ高価だが、 数万~十数万円の普及機が登場すれば大きな市場に広がる可能性がある。 そのカギはフルカラー化ではないか。

オリジナルフィギュアの制作ニーズは大きいが、品質に対する目も厳しい。 単に着色できるというレベルではなく、滑らかな曲面に写真画質でプリントしたい。 個人的には、立体地図あるいはジオラマ・箱庭が面白そうだ。 デジカメで撮影した風景を立体でリアルに再現したいし、オリジナルも作ってみたい。

既に3Dカラープリンタ製品は発売され、フィギュアや 立体街並みジオラマも制作されている。 しかし、数百万円クラスであり、そのままの低価格化には時間がかかりそうである。 低価格機で小さなフィギュアや建物に美しくプリントするには、 3D CGで使われるテクスチャマッピング(2次元画像の曲面貼り付け)が有効かもしれない。

パーソナル製造が産業革命を起こすのは、まだまだ時間がかかりそうだ。 だが、趣味と実用を兼ねた日曜製造はもうすぐやってくる。 今日はクリスマス、我が家のサンタが3Dプリンタを届けるのはいつの日だろうか。