スマホで実現する「ネット家電」

パナソニックが「スマート家電」の発売を開始した。「ユビキタス社会」が流行言葉になった2000年代前半以来、ネットワーク家電などの次世代家電は度々売りだされてきたが、お世辞にも普及したとはいえない。スマート家電は普及するだろうか?

スマート家電は「スマホ家電」

今回パナソニックが発売したスマート家電は、エアコン、冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器といった白物家電や、体組成計、血圧計などの健康機器である。エアコンを除き、各機器にスマホでタッチすることで、様々な付加機能が使える(エアコンは特定小電力無線を利用)。

健康機器については、健康機器にタッチすると計測したデータがスマホに転送され、体重や血圧などの推移をスマホで見ることができる。健康機器は小さなモニターしか持たないため、スマホとの連携は使い勝手の向上につながる。これまでは体重の推移などをノートやPC等に記録する必要があったが、タッチだけで記録・閲覧できるとなれば、計測が三日坊主になることも減り、ダイエットや健康維持に役立つだろう。

別のコラムに書いたが、スマホに興味を持つ60代は健康意識も高い。彼らをターゲットに、スマホと健康機器をセットにして売るのも一つの手かもしれない。

一方、白物スマート家電は、そのメリットが感じにくい。洗濯機の場合、洗濯機にタッチすると洗濯物の量と洗濯コース、洗剤に合わせた洗剤量をスマホが教えてくれる。炊飯器・レンジでは、パナソニックが提供するレシピをスマホで検索し、そのまま買い物メモにしたり、炊飯器・レンジにタッチするだけで時間・温度をセットして調理してくれたりする。

洗濯機置場にスマホを持っていくだろうか、洗剤の量を厳密に量るだろうか、パナソニックが提供するレシピを使う人がどれだけいるだろうか(クックパッドを使う人の方が多いのでは)などと考えてしまうと、出ては消えていった「ネット家電」と大差がないように思えてしまう。

「タッチ」の限界と可能性

たとえば洗濯機の場合、NFCではなく無線LANを使うという選択肢もある。別の部屋を掃除しているときに洗濯の残り時間や洗濯終了を確認できるとうれしいのではないか。レシピ検索はリビングですることも多いだろうから、炊飯器・レンジも無線LANとの相性は良いはずだ。

以前は家電をネットワークに接続する手段が課題であった。有線LANにはケーブルを引き回す手間があり、期待された電力線通信(PLC)もモデム購入のハードルもあり、普及していない。一方、無線LANは設定の難しさから普及していなかったが、携帯電話キャリアがトラフィックを抑えるために無線LANアクセスポイントを積極的に配布したことにより、無線LANのハードルは低下している。「タッチ」の場合にはその場にいないと使えないため、遠隔操作が求められる機器では今後は無線LANを搭載するようになるだろう。

パナソニックもこのような状況は十分把握しているはず。それでも今回、敢えて「タッチ」にこだわったのは、「家電にタッチする」という習慣を消費者に植えつけたかったためだと考える。家の中でもスマホを持ち歩くようになれば、また新たな活用法が出てくる可能性がある。

スマホで近づく理想のネット家電

ネット家電で実現できることの例として、「冷蔵庫の中身を冷蔵庫自身が把握しているため、レンジや冷蔵庫のモニターでレシピを検索すると、買い物リストが自動的に作られる」、「ホームロボットを使って外出中でも家の様子を自由に見られる」という絵姿がよく挙げられる。技術や費用等の制約から現在ではこれを実現するのは難しく、実現には至っていない。

だが、スマホを活用するとこの世界に近づける。冷蔵庫内部にカメラを設置して映像をスマホから見られるようにすれば、中身が把握できる。レシピはクックパッドなり、自分のお気に入りのレシピサイトを使えばよい。両者を簡単に切り替えられるアプリさえあれば、買い物リストの作成も簡単だ。 ホームロボットがなくても、ルンバにカメラを搭載し、その映像をスマホから見られるようにすれば、外出時に宅内の様子を確認できる。

これまでのネット家電では、ともすれば家電単体で何もかもができることを目指してきたが、スマホとスマホアプリ、Webサービスを活用することで、家電自体に求められる機能=コストを減らせる。「タッチ」はその第一段階といえる。冷蔵庫やレンジにレシピ検索機能をもたせたり、健康機器にモニターを搭載するのではなく、スマホの機能を利用したのだ。

実現手段は当初と少し異なるかもしれない。それでも、ネット家電の描く世界の実現は確実に近づいている。