今年の関東地方は降水量が少なく、9月11日より利根川水系からの取水制限が行われた。日本において水不足が深刻な問題になることはあまり考えられないが、世界を見ると状況は変わる。一人あたりの水使用量は、生活水準の向上とあわせて増加する。急速な人口増加と生活向上に伴い、水資源の重要性は今後一層高まると考えられている。実際、アメリカ国家情報長官室が水危機を警告する報告書を今年3月に発表するなど、水への関心が高まりつつある。また経済産業省によると、2025年には世界における水ビジネス関連の市場が80兆円以上に拡大すると予測されており、人命を考える上でも経済を考える上でも水の重要性は高い。
水ビジネス市場への参入が盛ん
9月13日、サムスンが水処理ビジネスに参入することが伝えられた。参入分野は水膜処理という下水浄化であり、日本企業が高い技術を持っている分野である。また、東芝が水研究センターをシンガポールに設立したり、日立製作所がモルディブにおける上下水道事業に参画したりと、多くの民間企業が水ビジネスを注目している。
注目しているのは民間だけではない。豊橋市がインドネシアにおける水道事業の支援計画を行っている他、川崎市がかわさき水ビジネスネットワークを設立する等、自治体にも水ビジネスの海外展開を行う動きが広がっている。
情報技術を利用した利水と治水
上下水道管理のクラウド化も進んでいる。Rubyを使った最大規模の商用システムである上下水道遠隔管理システムは、水道施設が停電状態に陥った東日本大震災の際にも効果を発揮した。上下水道施設の稼働状況や水質等の計測値モニタを実施する広域監視システムも開発されている。また大和リース等は、下水汚泥からのバイオ水素製造実証試験に着手しており、燃料電池車への供給も目指している。
欧州では、水の利用状況をモニタリングし、需要と供給のバランス確保や漏水への対策等における課題を解決することを目指すICeWater (ICT Solutions for Efficient Water Resources Management)プロジェクトが開始されている。ドイツのシーメンス社他、日本からは東芝欧州研究所も参加している。様々な種類のセンサを利用し、センサから取得したデータに基づいて水を取得するスケジュールや水圧等の最適化を支援する。水の供給に関する情報は、水を提供している各団体にオンラインで提供される予定である。また稀な例であるが、水資源が豊富にあるある小惑星を発見し、掘削作業を行う計画を立てている企業もある。
治水に関しても情報技術は有効である。オランダ運河における水門の制御システムは形式手法を用いて開発された。形式手法は前回のコラムで解説したように、高い品質要求が必要である場合に特に有効性が高い。治水や利水や人命に関わる問題であるため、形式手法の活用が期待される領域の一つと言えるだろう。
水情報のデータベース化が重要
水ビジネスを制するために、あるいは今後生じるであろう水危機に対応するためには、あらゆる水の利用状況を把握することが重要である。河川情報をスマートフォンで収集するiPhoneアプリケーションがIBMから提供されている。河川の水量、流速、ごみの量の情報を集め、河川管理者等に情報を提供している。IBMは数年前から水ビジネスに着手しており、すでにセンサネットワークを用いた大量データ分析を行っている。 商品の原材料から、生産、廃棄に至るまでにおいて利用される水の量であるウォーターフットプリントを整理したデータベースも公開されている。また水道のスマートメータが普及すれば、各家庭における水道の利用状況が細かく把握できるようになるだろう。
このように、水というキーワードの重要性は高まりつつある。日本で生活する上でも安心はできない。輸出入において、水そのものを取り扱わない場合においても、水を利用して生産された商品を取り扱った場合、仮想水(Virtual Water)の取引が行われたとみなす考え方がある。日本は多くの食糧を輸入に頼っており、仮想水の輸入は相当量ある。今後、輸出国の水資源を管理する必要が生じてくる可能性もあるだろう。情報技術が貢献できることを今から考えておくことが重要である。