Kinectの大成功
Microsoftの距離画像センサ「Kinect」が発売されてから約1年半。Kinectは発売から4ヶ月で販売台数が1000万台を超えるなど発売当初から大ヒットし、さらにゲーム機のコントローラの枠を飛び越え、新しいユーザインタフェースや計測ツールとして様々な分野で活用され始めている。
Kinectがまだ「Natal」というプロジェクトネームで呼ばれていた発売前の時期に、筆者のコラムで同センサを取り上げた。同コラムでは、期待を込めてKinectが姿勢推定技術のビジネス化を導いてほしいと書いたが、Kinectは筆者の期待を上回る大ヒットとなり、姿勢推定技術のビジネス化を強力に後押ししている。
支援プログラムと様々な応用例の出現
Kinectはゲームコントローラとして発売されたものではあるものの、発売当初からユーザによりハックされ多くの応用アプリがつくられた。Microsoftも、ゲーム以外への応用を当初から検討しており、2011年6月にはWindows向けのSDKベータ版を公開し、2011年11月にはMicrosoftがKinectセンサを活用するアプリのビジネス化を支援するインキュベーションプログラム「Kinect Accelerator」も開始するなど外部リソースの活用に積極的であった。
これらの動きもあり、距離画像センサとして多くのアカデミックな研究で利用されるとともに、医療やヘルスケア、教育といった分野の実際のビジネスにも利用事例が続々とでてきている。
いくつかの事例を紹介すると、医療分野ではカナダの医療チームがKinectを外科手術の現場に採用している。がんなどの外科手術では、患者の診断画像を術中に確認する必要があったものの、画像を表示させるためのキーボードやマウスは非減菌領域にある場合が多く、減菌領域である手術室では操作ができないという問題があったという。そこで、Kinectによるジェスチャー操作を導入して、執刀医の負担を大幅に軽減することに成功した。
また、Microsoftのオンラインビデオサービス「Xbox LIVE」では、ジェスチャー入力によるアンケート集計機能を備えたCM「NUads」の提供が発表されている。「NUads」では、視聴者はジェスチャーによるインタラクティブなCMを楽しむことができる。
これらの事例は、安価で大量に普及しているKinectだからこそ利用された事例で、Kinectが切り開いたビジネスであるといえる。
Kinect成功の要因と次の成功商品
では、Kinectの成功要因は何だったのか。Microsoftが外部リソースの活用に積極的だったことも大きいが、一言でいうと、やはり多くのユーザを抱える「巨大プラットフォーム×ニッチな製品」だろう。
距離画像センサ自体はKinect発売前から特に珍しいものではなかったものの、高価であり、多くの人が試すことができるようなものではなかった。しかしながら、MicrosoftはXboxという多くのユーザを抱えるプラットフォームの関連製品として発売することで、大量生産による低コスト化とその製品の一気の大衆化を実現した。ニッチな製品でも、魅力ある製品は数多くある。それを一気にスポットライトを浴びるステージに引き上げたのである。
現在、同様に、可能性を秘めるニッチな製品を投入できそうなプラットフォームがいくつかある。1つはスマートフォンである。スマートフォンはゲーム機同様CPUも積んでいるため、様々なものを接続して試すことができる。既に、ヘルスケア関係を中心に、脈波センサや心拍計センサなど今まで日の当たらなかった商品が発売されている。また、スマートフォンは開かれたプラットフォームであるということも大きいだろう。他にも、スマートカーの時代となり多くの外部接続機器と連携するようになってきている自動車や、ネットワークと接続し付加機能を増やしつつあるテレビといったプラットフォームもある。
Kinectに続くヒット商品が、これらのプラットフォームから生まれる可能性は高い。どのような商品が出てくるかわくわくしながら見守りたい。