市場シェアからLTV向上へ

LTVとは

古くはインターネットプロバイダの無料モデム配布、0円ケータイ、100円パソコン、最近では、クレジットカードの入会時キャッシュバック・ポイント進呈キャンペーンや、光回線の新規加入時プレゼント(タブレット端末、液晶TV、TVゲーム機)など、こうした販促プログラムは今に始まったことではないが、どのような収支計算に基づいて設計されているのだろうか。

企業側は、顧客の単発的な売上ではなく、その顧客と企業との付き合いが始まってから終了するまでの間にもたらしてくれる顧客生涯収益(=Life Time Value、LTV)を算出することで、その顧客を獲得するために、いくらまで販促コストを捻出できるのかを計算している。当該顧客のLTVが、獲得・維持コストを上回れば、その販促コストは正当化される。

多くの企業では、販促費は、前期の売上実績などから、特に戦略を持たずに割り当てられているのが普通だろう。顧客ごとにLTVを算出しておけば、自社にとっての優良顧客とそうでない客を選別でき、販促コストにもメリハリをつけた配分ができる。

LTVの算出手法

LTVは、当該顧客の将来にわたって発生する収益を推測し、これを現在価値に割り引くことで求めるのが基本である。より具体的には下式となる。

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ここで、tは顧客獲得後の経過期間、Stは当該顧客のt期における生存確率(顧客である確率)、Dtはt期収益額、δは割引率である。

t期の生存確率については、一期後の維持率を経験則で決めてしまい、この維持率のt-1乗としてしまう方法がよく用いられる。しかしながら常に同じ維持率を適用するこの方法の正確性は期待できない。これを打破すべく、維持率の変化をハザードモデルで説明する方法や、顧客から離脱したり、又復活したりという状態遷移をマルコフ連鎖で説明する方法が開発され、顧客の状況を精緻に説明できるようになってきた。

さらに、顧客の購買行動から、購買確率をポアソン分布、離脱までの時間を指数分布とし、さらにこれらの確率分布のパラメタ(平均値)をガンマ分布に従う混合分布モデルとすることで、顧客の個別性をも表現可能としたPareto/NBDモデルが、顧客の生存確率を説明する方法としては決定的なモデルとなった。以降、Pareto/NBDモデルの拡張モデルが20年以上にもにわたり拡張されている。

t期収益額は、売上高から顧客維持コストを減じたものである。売上高については、顧客ごと一年間の売上高に定数を当てはめてしまう方法や、時系列モデルによりトレンドを予測する方法、顧客の過去の購買履歴を説明変数とした回帰モデルを利用する方法がある。

またコストにおいては、ABC(Activity Based Costing、活動基準原価計算)により、サービスごとに、直接コストおよび間接コストを分割して、個々のサービスごとの原価計算を行ない、顧客ごとサービスの利用履歴から、個別にコストを算出していくのが最も精緻なやり方だ。

LTV導入の留意点

LTV算出の導入には留意点もある。一つは、LTVによる意思決定が、どうしても、長期的(例えば1年以上など)な視野に立ち、先行投資的な行動を優先する点である。この点では中小企業、とくにキャッシュ・フローが重要なネットショップなどは適用に注意を要するであろう。

また、LTV算出にシステム的に大きな仕組みが必要であることにも留意が必要だろう。特に、顧客単位で、購買記録が時系列で管理する顧客データベースを前提とすることから、一定規模のシステム投資が必要となる。

しかしながら、今の不況かつ飽和市場においては、新規顧客獲得を中心とする市場シェア路線から、既存顧客の中での財布シェア(顧客の総購買金額の中での占める割合)拡大へと発想の転換が求められていく。この中では、LTVがその中核を担う。今こそ、市場シェアからLTV向上へ発想の転換をする必要がある。