UXマーケティングの可能性

人間中心設計(HCD)は「ユーザビリティの高い機械/システムを作る」ために「使う人間の立場や視点に立って設計を行うこと」である(@IT「情報マネジメント用語辞典」より)。
HCDの対象は機器やシステムから、最近はサービスも含まれてきている。

ユーザエクスペリエンスとサービスの関係

サービスとHCDの関わりを論じる上で欠かせないのがユーザエクスペリエンス(UX)である。UXの定義は人によってばらつきがあったが、昨年、有識者が集まり、「UXとは何か」を示したUX白書日本語版)が公開された。

UX白書によると、UXは「システムの利用・出会いを通じて人々が持つ経験」であり、経験自体の研究、経験を良くするためのデザイン、経験の評価などが行われている。経験には以下の4種類があり、それぞれが予期的UXへフィードバックされる。

  • 予期的UX:システムの利用によりどのような体験ができそうか想像する
  • 一時的UX:システム利用中の体験
  • エピソード的UX:利用後にどのような体験だったのかを振り返る
  • 累積的UX:ある程度時間が経ち、他のシステム等を使った後に残るシステムの印象

この定義では「機器・システムの利用に関する体験」としているが、「機器・システム」を「サービス」に置き換えてもまったくおかしくない。サービスにおいてもUXの概念が適用可能であることがわかるだろう。
また、上記の定義から、UXを良くするためには単に使いやすくする(一時的UXを向上させる)だけでなく、利用者にどのようなイメージを植えつけるか、また、残すか、といった長期的な観点が必要となってくることがわかる。つまり、設計・開発フェーズでだけでなくマーケティングなど、より上流工程でも意識すべきなのだ。

ユーザと製品・サービスのつながりを可視化

このようにUXがカバーする範囲が広くなってくると、UXを向上のために、新たなツール・手法が求められる。
最近欧米で注目されているのがユーザエクスペリエンス・ジャーニー・マップだ。新しい手法のため、まだ試行錯誤の部分も多いが下記の3点がポイントだ。

  • サービス利用時の流れに沿って、サービス利用者がどのようなサービスを受け、どのように感じるかという点を中心に利用体験をマップ上にプロットする
  • タイムラインには、ユーザーとサービス提供側のやりとりが行われる具体的なタッチポイントを明記する
  • 各タッチポイントでのインタラクションを具体的に記述する
  • 出所:エクスペリエンスジャーニーマップ/カスタマージャーニーマップ

    本手法ではユーザの行動に対して製品・サービスがどのように応えているのかが可視化できる。もし対応する製品・サービスがなければ、そこには施策のヒントが隠されている。注目すべき点は、多くの事例でユーザの思考・感情もマップに表していることである(下図)。「体験」を語るには「何をしたか」だけでなく「どう思いながら行動したか」が重要なのだ。感情が表現されていることにより、製品・サービスを改善すべきかどうかがわかり、また、施策の優先順位の設定にも利用できる。本手法はレゴや予約サイトのような製品・システムのみならず、スターバックスやニューヨーク近代美術館でも利用されている。

    (クリックして拡大)
    出所:The Anatomy of an Experience Map – Adaptive Path

    UXはIT機器・システムを発端とした比較的新しい概念だが、少しずつ適用範囲が広がってきた。
    設計・開発段階での適用では費用対効果が求められることが多いが、マーケティング段階では制約はやや緩いだろう。新しいアイディアを産み出すツールとして、UXの概念を取り入れてみてはいかがだろうか。