年賀状で情報リテラシ(再び)

年末にこのコラムを書くにあたって、本サイトの立ち上げ直後の1998年末に「年賀状で情報リテラシ」というタイトルで書いたことを思いだした。あれから13年も経って、年賀状事情も様変わりしている。今回は、昨今の年賀状事情と情報リテラシの関係を改めて考えてみる。

紙で出すというインタフェース

電子メールやSNSが発達し、パソコンのみならず携帯電話、スマートフォンと便利な機能が増えた。ネットとデジタル化の流れで、紙の年賀状が淘汰されてしまうと考えていた時期もあったが、2011年の現在も、紙の年賀状は健在である。

従来型の自宅で印刷してポストに入れるものに加えて、インターネットを活用したものも多種多様に提供されてきている。年賀状作成ソフトの機能をすべてクラウド上で実現したものも増えてきたし、ミクシィ年賀状やウェブポのように、SNSのアカウントを指定するだけで、受取人の住所を知らなくても、年賀状が差し出せるようになってきた。

年賀状に限らず、郵便物の取り扱い数は減少傾向だが、それでも年間200億通程度が国内でやりとりされ、そのうち2割弱が年賀状という状況である。日常的にやりとりしているデジタルな電子メールなどと比べて、紙をやりとりするという特別感が、根強い人気の秘密であろう。

住所録整理のきっかけ

受取人の住所を知らなくても年賀状が出せるサービスが流行っていることからも分かるように、住所情報は相対的に価値を失いつつある。日頃は携帯電話や電子メールで連絡が取れるために、非常に親しい人以外の住所は、年賀状くらいしか利用価値がない。

しかし、いざ年賀状を出そうと思ったときに、「年賀状を送りたいから住所を教えて」とメールをするのも気が引けるので、SNS経由の年賀状が主流になるまでは、年賀状のやりとりをするタイミングで、住所録の整理を続ける必要がある。

あけおめメールの輻輳対策

一方、紙の年賀状ではなく、電子メールなどのデジタルを活用されている人も増えているだろう。いわゆる「あおおめメール」を元日の0時に送ろうと考える人は多く、携帯電話網の輻輳を引き起こすことはよく知られている。

元日の0時前後の輻輳対策は、通信事業者各社で様々な対策が行われているが、利用者側でも毎年の「つながらない」という経験を経て、工夫を凝らす人が増えてきた。電子メールであれば、時間指定でメールを送付するサービスに事前登録しておくこともできる。また最近はスマートフォンが普及してきたので、携帯電話会社が提供するメールサービス以外の、パソコンやスマートフォンで使えるメールアカウントの方に送ることで、輻輳をある程度避けることができる。

求められる情報リテラシの変化

紙の年賀状にせよメールにせよ、特別なことをやるためには、様々な知識が必要となる。年賀状の写真を加工するツールは、この10年ほどで格段に使いやすくなったし、ほとんど自動で調整してもらえる。一方、ネットワークサービスを使いこなす上で、自宅の中だけでなく、外(インターネット)のことに対する知識や配慮が非常に重要になってきた。

たとえば、クラウドサービスを使って年賀状を出す場合、決済にクレジットカードを使うケースが大半だが、そのセキュリティに気を配る必要がある。さらに、そのクラウドサービスが信頼できるものか、ネットの口コミなどを参考にしつつ判断することもすべきだろう。また、そのサービス用のアカウントとパスワードの運用には、仮にその情報が漏洩した場合にどれくらいの影響があるのかを考慮しなければならない。

デジカメ写真の利用にも注意したい。GPS機能付き携帯電話やデジカメが増えたことで、写真を撮影した位置の情報が無意識のうちに写真ファイルに付いてしまうことがある。これにより、SNS等を通じて自宅の住所が分かってしまうという問題が指摘されている。クラウドサービスに写真をアップロードする際には、そうした位置情報を削除する気遣いが必要になる。

あけおめメールを使うときには、輻輳をどのように回避するか気にかけるとともに、受け取ったメールについても留意する必要がある。日頃あまりやりとりしていない相手からのメールが届くケースが増えるため、その中にウィルス付きのものがないか、フィッシングメールが含まれていないか、日頃よりも注意を払うべきだろう。

年賀状というイベントに必要な情報リテラシの内容は、この13年で大きく変化した。機能をいかにして使うかという牧歌的な時代から、便利だが隙あらば直接的な被害を被りかねない時代に変わった。年賀状作成という日頃やらない作業を進める中で、新しい情報リテラシが自然に身につくことに期待したい。