ビッグデータ時代のスポーツ

マネーボール』という映画が公開中である。「膨大なデータ分析を駆使して新たな野球理論を提唱し、低予算の弱小球団を最強のチームに作り上げた」という話である。「もし、数学が得意な学生がMLBのマネジャーだったら」ということのようだ。本稿では、「スポーツ」と最近よく耳にする「ビッグデータ」との関係を掘り下げたい。

スポーツデータ解析の難しさ

ビッグデータというと、ヘルスケア、公共部門管理、小売り、製造業、個人位置データがMcKinsey社のレポートに出てきたこともあり代表的だが、スポーツを挙げているレポートもある。例えばイタリア・サッカー・セリエAの名門のACミランでは選手のけが防止のためのデータ解析を普段から行っているという。こうしたデータ解析は、MIT Sloan Sports Analytics Conferenceという数年前から開催される会議などの議論からも垣間見ることができる。 同会議にも参加しているSports Data Hubの中の人は、「すべての分析タスクをこなせるようなソフトウェアパッケージって、売ってないですか?」という質問を非常に多く受けるそうである。しかし、それはHoly Grail(見果てぬ夢)であるという。データ管理、分析、可視化、どれをとっても難しい上に、そんなソフトウェアが売りに出たら、各チームで差が出なくなってしまうという話である。スポーツデータ解析の難しさは、「Width」「Depth」「Speed」の3つといわれる。データの多様性、詳細さ、かつ処理の速さとのことである。

オフィシャルなデータ解析の現状

サッカーのテレビ中継でも、最近では各選手の走行距離やパス成功率など、事細かに提供されている。先日のUEFAチャンピオンズリーグではホームでの予選敗退を避けるために一人平均12km走っていたという話があり、結果敗退はしたものの仕方無いかな、良くやったなと思わせる不思議な説得力もある。こうしたデータの収集・解析はStats StadiumoptaProzoneなど限定された組織により実施されている。

解析対象となるデータは、試合中の動作だけにとどまらない。Catapult SportsはボールにGPSを入れることで、キックの距離やパスのパターンなどをデータとして残している。GPSportsはラグビーのスローフォワードを判定したり、ボールがラインをぎりぎり割った時など、試合を止めるべき時にレフリーに通知してくれる仕組みを構築している。先のサッカーワールドカップでもゴールを見逃す誤審があったが、国際サッカー連盟(FIFA)の公式戦で使われないのには何か大人の事情があるのだろうか。練習では各チームとも利用しているということである。

なお、英国・サッカー・プレミアリーグでは、選手のシャツにセンサーを入れて、体温、心拍数を取得することまで検討している。例えばペナルティーキックを取る時の緊張感まで伝わるという。

個人を対象としたビッグデータへ

個人的には、スポーツのデータ解析は比較的限定された世界であり、さらにビッグなデータになる余地があると感じている。その余地とは、プロだけでなく一般市民の運動データが解析され、さらに提携している事業者に二次利用される時である。これはどういう時か。米国における「ゲーミフィケーション」の動向レポートにも、専用のセンサー機器を使って運動データを取得し、ソーシャル系サイトで共有する事例が取り上げられている。さらに、ゲームフィットネスジム(日経トレンディ誌で、来年2012年にはやるものランキング17位に入っている)にあるような、モーションセンサーによるフィットネス装置からもデータは取得できるだろう。こうした運動履歴のデータを、各人がひとところにまとめて保存・制御でき(どこでもマイジム?)、さらに健康指導や物販などの付加サービスと結びつけられるようになる時である。ジムの利用者は健康でいたい、ジムは利用者に定着して欲しい、また健康保険提供側は、コスト面でも会員に健康でいてほしい、こうした循環する要求を満たす時にデータは収集・解析する価値を持つだろう。

ジムからすっかり足が遠のき、自宅でもっぱらスポーツ観戦をしている著者自身のようなタイプの人にもジム通い再開のきっかけになりうる。しかし、昔ゲームセンターでゲームのキャラクターにさせていたような動作を自分でして、点数を付けられることになると、何かこっけいではあるのだが。